現場でbotを実際に運用している人間として、自分の運用思想を記録しておく。
簡易まとめ表
原則 | 内容 |
---|---|
動的性 | 市場・戦略・実装のすべては変化する前提 |
再構築性 | 壊れる・死ぬ・陳腐化することを設計に含める |
多戦略 | ストラテジーは分散・重みづけは変動 |
人間の役割 | 保留、抽象保持、感情処理、非形式判断 |
ボットの役割 | 検出、スコア化、分類、実行 |
勝利の定義 | 生存、維持、再起、反復、ログの蓄積 |
1. 壊れる前提で設計する
- システムは破綻を含んだ前提で作る
- 「永遠に機能する戦略」ではなく、「壊れながらも再構築可能な枠組み」が前提
- 成功した戦略も“期限付きの機能”と認識する
2. 現在に最適化する。過去に依存しない。未来を信じない。
- バックテストはあくまで参考。重視するのは**“今のマーケット状況におけるリアルタイム挙動”**
- 期待値設計は動的に変化させる。変化に応じて戦略を切り替える柔軟性が最重要
3. 戦略はアンサンブル。重みづけは可変。
- 単一戦略で走らない。複数ストラテジーの動的ポートフォリオ化
- 各戦略の成績に応じて、資源(資金・時間・モニタリング)の重みをリアルタイムで変更
4. 自分の脳を使わない部分はbotに任せる
- 情報収集(ノイズのフィルタリング・スコアリング)などはbotに投げる
- 人間は「未定義な事象の保留や判断、曖昧性の管理」に集中する
- 自分のリソースは思考・設計・検証に限定する
- 情報収集(SNS、ニュース、Discordなど):bot
- データのスコア化、異常検出:bot
- 判断の保留、文脈解釈、意味のない動きの切り捨て:人間
- 感情処理:botでは無理。人間が受け止めて流す。
- 人間の脳は曖昧性の処理が得意だが、精密な連続判断には向いていない。使い分けること。
5. 検証は“完了しない”という前提で維持する
- 検証済み戦略でも、常に「壊れるかもしれない」という更新可能性を残しておく
- 妄信は構造を殺す
- 疑いは検証の入口であり、信頼の前提
- どんな戦略も、検証は永遠に続く。信頼して使うが、妄信しない。
- 再現性が落ちてきたら即観察。壊れ始めたら見送る。保守ではなく、撤収の判断を速く。
6. 勝つのではなく、生き延びるための構造にする
- 天才と戦わない。勝てる相手・構造・フェーズを見極めて選択する
- 戦う場の選定こそが勝率を支える設計要素
- 「常勝」は目指さないが、「継続的に動ける構造」を最上位に置く
7. 市場を操作しない。操作されない。適応する。
- 胴元にはなれないなら、“フィールド内で最も適応性の高い構造”を持つ
- 相場の変化は予測ではなく、変化そのものを前提にする設計思想
8. “正しい”より“使える”を優先
- 正しいアルゴではなく、今使えるものを採用する
- 情報も同様:意味よりも“行動に影響するか”を評価軸にする
- すごそう、正しそう、賢そう。全部どうでもいい。
- 使えるなら使う。使えなくなったら捨てる。意味は後付け、価値は結果。
優先項目は勝ち続けることではなく、壊れずに動き続けること。
自分にとっての最適化とは、結果の最大化ではない。 変化に耐え、崩れても再起できる設計。
その他のコア思想(自己メモ)
- 疑いの閾値を異常に高く保つ
信頼の前提は徹底検証。9割以上を門前払いする設計でも問題ない。検証コストを負えない相手や情報は切り捨てる。 - ノイズを“環境圧”として利用する
ノイズは情報ではなく耐圧試験素材。見聞きは bot に委任し、人間は圧だけを感じて構造の歪みを検査する。 - 勝ちを個人サイズで定義する
1 試合 1 万点ではなく 3〜5 点を現実的に取り続ける。外部評価や幻想的大勝より、継続と再起を優先。 - 才能幻想を拒絶する
"特別な才能" ラベルは思考停止の温床。再現不能を理由に行動を放棄しない。 - 胴元最強を理解しつつ、まだ選ばない意志
市場構造側に回る勝ち筋の存在は認識。ただし現段階ではプレイヤーとしての適応を優先し、準備が整うまで保留。 - 人間特有の曖昧保持能力を最大活用
未確定概念をあえて棚置きにし、決定を遅延させることで誤爆を防ぐ。bot と役割分担。 - メンタルとフィジカルをリセットする
疲労を感じたら即休む。寝落ち出来る設計=システムが人間を前提にしていない証拠。
これらはすべて「壊れる前提で設計する」という大原則の派生。自分が動的に変化し続けるための補助輪でもある。
可能性のある反証
以下は、**「動的 bot 開発 & 運用思想」と追記した“その他のコア思想”**に対して ― あえて可能性のある反証(=構造的に揺らぐポイント、逆張りシナリオ、弱点の突きどころ)をまとめたもの。
あくまで「こういう条件が重なると理念が裏目に出る/追加対策が必要になる」という仮説レベル。
1. 壊れる前提で設計する ⇒ 「壊れなさすぎる市場」リスク
反証シナリオ | 論点 |
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長期トレンドが異様に安定してしまう(例:機関勢主導でボラ激減、手数料激安の単調相場) | “短命アルファを掘る” 戦略より、低頻度・高資本の静的戦略が効率化 「壊れてもいい」はオーバーエンジニアリング化し、保守コストだけ残る。 |
規制や取引環境が固定化され、戦略更新より KYC/法務適応がメインコストに | 動的性のメリット < コンプライアンス固定費。 “壊れる/再起”ループより “壊さず長く保つ” 方が IRR で勝る場合も。 |
2. 過去に依存しない。今に最適化。 ⇒ 「履歴効果とメタ学習」反証
- 現代 ML/強化学習では「長期履歴を学習し、未来の位相転換を先読みするアルゴ」が徐々に実用化。
- もし “遠い過去+外部マクロイベント” を重み付けできる AI が誕生 → 人間の「今だけ最適化」は 遅延学習化する 可能性。
- “過去を捨てる”が短期アダプテーション最強とは限らない。
- 例: ハイブリッド LLM-Algo が「市場サイクル 8〜10 年周期」を捕捉、再現性を持って張り続けるなど。
3. 多戦略アンサンブル & 動的重み付け ⇒ コンビナトリ爆発・メタリスク
- 重み更新ロジック自体が新たなシングル・ポイント・オブ・フェイル
- 例: メタオプティマイザが “最適” を誤学習 → 全ストラテジーを同方向に傾けブラックアウト。
- 流動性枯渇/スリッページ同期
- アンサンブル内部で切替えが同時に発生 → 多戦略なのに事実上 “同じ足” で踏み抜き。
- → 真に非相関を維持する運用コスト(手数料、ヘッジ料)が収益を食い尽くす恐れ。
4. ノイズを bot に任せる ⇒ ブラックボックス・フィルタ依存リスク
問題 | 具体的懸念 |
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“なぜ捨てたか”を説明できない | 規制・監査・LP からの説明要求で詰む/モデル崩壊の要因追跡が不能。 |
フィルタロジックのドリフト | SNS 言語変化・ミーム変換でキーワード係数が数か月で無効 → ノイズがシグナル化する瞬間を取り逃がす。 |
操作耐性 | 相手にフィルタ特性を観測・逆手に取られると、bot が“ノイズだと思い込む” 情報チャネル経由で攪乱が可能。 |
5. 疑い閾値が高い ⇒ 機会損失 & コンセンサス・ラグ
- 極端な逆張り情報を “門前払い” しすぎると、 ブラックスワン前のノイズ → 権威ある正式発表
の遅延で エントリが遅くなる。- BTC・ETH の “ハッシュレート急減” など、速攻で逃げた勢だけ助かった事例もある。
- 提携/資金調達 など “人間コミュニケーション由来のシグナル” を失う傾向。
- 「聞かない」習慣が ネットワーキング ROI を削ぐリスク。
6. 「才能幻想を拒絶」 ⇒ ハイリスク・ハイリターン戦略の見落とし
- “壊れてもいい” なら、あえて火力を上げて短期で焦土化する戦術(ロット集中・レバ 50x)もロジック上アリ。
- しかし「才能を嫌う」ことで 超短期の最大期待値チャンス を無意識に捨てる場面があり得る。
- 要は “安全に強い” が“極端に強い”を排除する副作用。
7. 胴元をまだ選ばない ⇒ タイミング逃し
- インフラ側に移行できるチャンスは 資本+規制+競合状況が噛み合う極短期。
- 「まだ自分はプレイヤーでいいや」と思っているうちに、 L2 大手 or OTC 巨資本が参入 → 核心部分の手数料モデルがロック
で 参入障壁が上がり手遅れ になるシナリオ。
8. 人間の曖昧保持能力 ⇒ 遅延/曖昧の罠
- 判断保留は強力だが、“保留 → 先送り → 機会消滅” 事故は常に背中に張り付く。
- 市場急変インターバルに “まだ観測…” と迷ってる間に
bot の自動ロジックに負ける(exit し損ねる)ケースが発生しうる。
ざっくり指針
- 反証は「思想が間違い」と言うより**“この前提が崩れたら別のレイヤーを準備しておけ”**という警告。
- **多層バックアップ、メタ・モニタリング、規制&資本の窓を読む“切り替えタイマー”**などで補強可能。
「それでも自分はこの設計が最適」と考えるなら、それでOK。
反証リストは“将来の想定外イベント”に対するアラートログとして保管しておく。