こんにちは、よだかです。
今回紹介するのはメアリアン・ウルフの「プルーストとイカ 読書はどのように脳を変えるのか?」です。
私たちの脳は元々字を読むようにはできていないということを知っていましたか?
本書の内容は
文字の登場と脳の機能がどのように関わっているのか
脳がどのように働いて字を読んでいるのか
ディスレクシア(読字障害)への考察
などに及んでいます。
「文字を読む」ということを深いレベルで理解したいという方にオススメの一冊です。
以下の記事と併せて読んでいただくと、より理解が深まります。
【デジタルのハックを許すな!】デジタルで読む脳×紙の本で読む脳【メアリアン・ウルフ】
それでは早速紹介していきましょう!
古代の文字が脳に与えた影響
読むことの始まりは、今から1万年以上も前から見られています。
過去1万年もの間に地球上の至る所で、さまざまな文字が現れました。
クレイトークン、縄の結び目、亀の甲羅に刻まれたデザイン、、、。
字を書き表すことによって人類が獲得したものは3つ。
①より抽象的な表現方法
それまで絵によって表現されていた概念を文字や記号によって表現するようになりました
②時間や場所を超えたコミュニケーション
文字は文化を丸ごと保存できるので、個人の言葉や思考を時と場を超えて受け継ぐことができるようになりました。
③音とシンボルの対応
ひとつひとつの音を物理的に表すシンボルを作ることによって、人が発する特定の音声が記号として表せるようになりました。
シンボルが概念と音声の仲介をするようなイメージですね。
人の思考や発した声という視覚化できなかったものがシンボル(記号)によって、保存できるようになったのはまさしく革命といって良いでしょう。
さらに興味深いのはここからです!
シンボルの発展によって、人の脳機能はアップデートされていきます。
シンボルを読むには、脳内にそれまでなかった”接続”が必要になりました。
ひとつが認知領域と言語領域の接続。
もうひとつが左右の脳の接続です。
シンボルが発明されるとともに、それらはさまざまな概念を表すためにどんどん発展してきます。
ところが、人の脳は元々、記号に意味を見出すようにできていません。
このままでは、自分たちの生み出したシンボルが意味をなしません。
そこで、脳は自ら持っていた機能をさまざまに組み合わせて機能させるという戦略を取ったのです。
詳しい説明は本書に預けますが、本書の面白さはこの点にギュッと詰まっています。
自らが生み出したモノで自らの機能自体をアップデートさせてしまうという流れにとても感動しました!
子供は読み方をどう学ぶのか?
ここからは、子供がどのように字を読むことを獲得していくのかをまとめていきます。
結論から言うと、文字を読むのを獲得するのに最も相応しい時期は一般的には7歳ごろからです。
ものには名前があるということを理解し始めるのが生後18ヶ月ごろ。
そこに至るまでには、絵や見たものに対する理解力を向上させる3つのプロセスがあります。いずれも関連し合っていて、初期言語の基礎となります。
①視覚システム
発達の基礎。生後6ヶ月までに完全に機能するようになる。
②注意システム
見えているものの中から、何に注意を向けるのか決める機能。成熟までに時間がかかる。
③概念システム
視覚イメージに関する知識や好奇心を呼び起こす。
この段階を通過すると、次は新しい単語の獲得の段階に移ります。
2〜5歳までの間に1日平均2〜4語を覚えます。
この時期の子供は数千語もの単語をインプットしていくのです。
ここで獲得した単語が”言語の才能”の素材です。
この時期に並行して、物語から情動を学びます。ここで学んだ情動が、他者理解の基礎を作ります。
3〜5歳の子供にとって、他者の気持ちを理解するのは簡単ではありません。
情動が未発達なこの時期に、物語の読み聞かせを通して、さまざまな心の動きを学んでいくのです。
心の動きを学ぶことは、自分と他人を結びつけると同時に、自分と他人との境界線を明確にする感情をも理解することに繋がります。
また、物語や書き言葉に見られる”書物の表現”に触れることで、認知の発達に役立ちます。
”書物の表現”は音声言語には登場しないため、書物から学べることはたくさんあるのです。(例えば”昔々”など)
読み方の勉強は7歳から
字を読む能力は、脳の様々な機能を接続させることを必要とします。
視覚、聴覚、概念の理解、、、。
それらがある程度育った上で、統合されていなければいけません。
脳内の機能が統合されるためには、ニューロンが電気信号を伝える状態(ミエリン化)になっている必要があります。
ミエリン=神経細胞の軸索を包んでいる脂肪でできた鞘
ミエリン化=ミエリンが形成されること
ここで重要な役割を果たすのが、脳の中にある角回という部分です。
この角回は、5〜7歳になるまでミエリンの充分な発達は起こりません。
逆に、感覚領域と運動領域はいずれも5歳になる前にミエリン化して、独立して機能するようになります。
脳の領域には、適切な発達時期というものがあります。
早期教育については、その時期を改めて見直していくと良いです。
不適切な時期の学びは、学習効果を下げてしまうという研究データもあるのです。
ディスレクシア(読字障害)を理解する
ディスレクシア(読字障害)という言葉をご存知でしょうか?
文字を読むことに苦戦する障害のことです。
文字の読み書きにおいて「よく間違える」「間違えやすい」原因を脳機能の発達に基づいて紐解いていきます。
それらを正しく理解することで、ディスレクシアを見直すきっかけを掴むことができます。
ディスレクシアの原因は主に4つあるとされています。
①言語または視覚の基盤となる脳の構造物に、発達上のおそらく遺伝子に関わる欠陥がある。
ディスレクシアの子供たちは、個々の音節と音素を知覚、分割、操作することが苦手です。周囲の人々も、彼らが文字と音の対応の規則を自力で見つけられないことを理解していません。一般的には、文字と音の対応する規則を無意識のうちに行なっているため、彼らの苦労に気が付かないのです。
②特定の特殊化したニューロン群内での表象検索がうまくいかない。回路内の構造物の接続がきちんとできない。または両方。
字を読むのに必要な脳の仕組みが、本来求められている速度で動かず、関連して機能しない場合がこれにあたります。スタンフォード大学の研究によると、ディスレクシアの人々の視覚情報処理速度が普通とはかなり異なることが確認されています。また、視覚プロセスと聴覚プロセスの間に起こる”時間のギャップ”にも原因があるとされています。片方は早く動くのに、もう片方は対応したスピードが出せない場合、”時間のギャップ”が発生します。文字と音の対応に不可欠な脳領域が充分にシンクロしていないため、字を読むことに苦戦するのです。
③これらの構造物の間で接続ができていない。
脳領域の接続に問題があるパターンで、回路機能障害とも呼ばれます。ディスレクシアを抱える子供達は、通常使われる回路とは全く別の回路を使って文字を読んでいる場合があることが分かっています。イタリアの神経学者たちによると、ディスレクシアを抱えたイタリア語の読み手たちの場合は、前頭葉と後頭葉の言語屋の間に離断があることが確認されています。また、エール大学の研究者たちは、脳の37野と呼ばれる領域(側頭-頭頂領域の一部。文字の読み始めに活力を与える)の接続の仕方が、ディスレクシアの読み手の場合は普通と異なっていることを発見しました。他にもさまざまな研究が、この仮説を裏付けています。
④特定の初期体系に使用されていた従来の回路から、全く異なる回路が再編成される。
ディスレクシアの人々は、文字を読む際、脳の右半球に依存しています。これは、何らかの理由で脳の左半球が文字を読むのを苦手としているためです。普通ならば左半球がこなしてるはずの役割を、右半球の”補助”領域が受け持っていることが、研究で明らかになっています。本来ならば左右の脳で処理していることを、右半球中心に処理しているのです。文字を読むというプロセスそのものが根本的に異なっているのです。
他にも、スペイン語を話すディスレクシア児の読解力は、英語を話すディスレクシア児ほど大きく損なわれていないなど、言語によっても差が見られます。
ディスレクシアの歴史から分かること
・子供が読み方を上手く学べないようなら、読字の専門家や臨床医に相談する
・ディスレクシアに決まった形はない
・音韻障害のある子供たちは、文字と音の対応や規則や解読の習得を苦手としている。そのため、音素認識の尺度を調べれば、幼少期に問題解決につながる場合がある
・重度のディスレクシアを抱える子どもたちの中には、言語的に恵まれていない環境で育った子どももいる。この場合、問題の焦点は、語彙にある。
・ディスレクシアの原因を紐解くためには、上記①〜④までのさまざまな要素に焦点を当てて、見極める必要がある。
・ディスレクシアを抱えている子どもは”やる気がない”のではない。理解のない状態で接することで、本人に二次的な障害をもたらしてしまう可能性があるため、知的障害と同一視してはいけない。
・ディスレクシアを抱える人の中には、その困難と上手く付き合い、偉大な功績を残した人物もたくさんいる。
ディスレクシアというのは、脳機能が新たに顕現した一形態であると捉えても良いのかもしれません。
よだか流・深掘り
分かりやすさって大事なのか?
本書を読んで一番最初に湧き上がってきた疑問です。
確かに相手のことを考えて、理解しやすい文章を書くことは大切です。
しかし、それはその文章が相手に物事を伝えるという前提があってこその認識です。
文章を残すことが人にものを考えさせるためだった場合はどうでしょうか?
なんの疑問も持たず、サラッと読めてしまうだけの文章と、自分の頭を使ってしっかり考えさせられる文章。
読者にとってリターンが大きいのはどちらの文章なのか?
もちろん、明確な伝達を必要とする場面で難しい言葉を多く使うのは避けたほうが良いでしょう。
文章が明確になればなるほど、具体性が上がれば上がるほど、伝えることは限定的になり、思考の機会は失われていきます。
文字を読むという行為が脳の機能のアップデートに関係していることは、冒頭でまとめました。
古来より受け継がれる哲学書などを読むと、読みづらいなぁと感じることはありませんか?
少なくとも私はそう感じることが度々あります。
難しい言葉の多い学術書などは、漫画版などでまとめられ、一見お手軽に知識が得られたような気分になります。
しかし、そこにあるのは表層的な理解であるような気がしてなりません。
自分の思考レベルや成長度合いに応じた学びがあると思うのです。
行動を伴った知識を獲得するためにも、手軽に知識だけを学びにいくスタンスはさっさと手放してしまった方が良いと考えます。
障害という概念を作り出しているのは社会
これは今に限ったことではありませんし、過去、多くの人が度々口にちてきた言葉です。
ですが、この本を読んで改めてそう思いました。
本書では、ディスレクシアということについて掘り下げていますが、これは一見悪いことのように思える物事を別の側面から捉え直す体験になりました。
文字を読むということが、強力なツールとして機能している社会においては、文字を読むことが苦手なことが悪いことのように認識される傾向にあります。
しかし、文字を読むことにさほど重要性を見出さない社会で生きている場合はどうでしょうか?
そこでは、文字を読む能力の是非は問われません。
ディスレクシアという特性が問題視されることもないでしょう。
ネガティブなジャッジを作り出しているのは、社会の有り様なのです。
我々の所属する社会に適した特性は良い特性と判断されます。
一方で、我々の所属する社会に不適切だとされる特性は悪い特性と判断されます。
人の意識や常識、判断基準を作り出しているのは、個人の感覚ではなく、社会という大きな枠組みそのものなのです。
自分自身の判断基準は、案外他人任せなものなのかもしれません。
自身の思考を支えるルーツを探るには、社会の成り立ちを調べることが重要です。
まとめ
最後まで読んでくださりありがとうございます。
文字の成り立ち、読むことと脳機能の関係、ディスレクシア、、、。
これ以外にも、アルファベットの誕生にまつわる話や熟達した読み手の脳で起こっていることなどを体系立てて学ぶことができます。
文字の歴史、脳の構造と発達、これからのオンライン・リテラシーにまつわる課題。
本書を読み込むことで「読む」ということを大幅にアップデートできること間違いなし!
読書の素晴らしさを改めて教えてくれた素敵な本でした。
同著者の新刊や関連記事も併せて読んでいただけると幸いです。
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