どうも、よだかです。
今回は、ハード白熱教室講義録〈下〉の内容と魅力をまとめていきます。
↓上巻のまとめと解説はこちらから!
【知性がもたらす破壊と創造!】ハーバード白熱教室講義録〈上〉【マイケル・サンデル】
ハーバードの学生たちが交わす白熱した議論にどっぷり浸かって、スリリングな思考の旅へ誘ってくれます。
そしてそれをまとめるサンデル先生の手腕も素晴らしい!
ハーバード大学の超人気講師であるマイケル・サンデル先生の生き方が存分に味わえる本書。
「正義について考えるとき、私たちは”善”を考えることからは逃れられない」ということを全12回の講義を通して考えさせてくれる内容です。
それでは早速、本書の魅力をまとめていきましょう!
本書・本記事を読んで欲しい人
・マイケル・サンデルが好き
・思考のアップデートをしたい
・西洋哲学思想を学びたい
本書の魅力
哲学者の知見がざっくり分かる
サンデル先生が学生たちに議論をさせる前に、その議論の土台となるネタを共有するのですが、そのパートに重みがあります。
本書は、上巻の続きですので、そこを土台として展開されています。
これまでに学んできたことをベースに展開される哲学史と、その哲学を作った学者たちの考えをざっくりまとめるサンデル先生の説明は何度も読み返したくなります。
また、本書の最終章では、サンデル先生の主張が非常に力のこもった言葉で伝えられていて、思わず音読したくなるほどの熱量です!
サンデル先生の講義の後に解説パートがある
講義の間に、小林正弥教授(千葉大学教授)の解説が挟まれていて、これが非常に分かりやすい!
本書の中にはどうしても難解に思える部分が出てきます。
特に、サンデル教授がこれまでの政治哲学の流れを解説するパートや、カントの主張や、現代政治哲学の源流となったものの説明は結構難しい部分もありました、、、。
文章で読んでいると、理論の展開がどうなっているのかよく分からなくなる部分があったのは事実です。
けれども、一回読んでもよく分からなかった部分を、この解説パートが見事に補完してくれています!
この本を読み切るのに、解説パートにとてもたくさん助けられました。
学生たちの議論がスリリング
やはり、学生たちが遠慮なく意見を述べ合う様に触れられるのが一番の魅力ですね。
流石にハーバードの学生だけあって、アタマの出来が違います。
自分の意見を的確に言語化しながらも、相手の意見や考えを尊重する姿勢が素晴らしい!
それぞれが予習してきているとは言え、ここまで自分の考えや主張を言語化できるものなのかと驚かされます。
言語化することは、最強の武器のひとつであるということを強く感じさせられました。
概要1:嘘をつかないメリット
嘘にも正当性がある
嘘の必要性について、カントの言葉が用いられます。
人の世には、唯一の道徳法則があり、それは科学で証明できないものだというのがカントの主張です。
唯一の道徳法則とは、人間の理性とは切り離されたところにあり、それには普遍性があるというものです。
カントは、これに則って人の道徳観を定義づけてきた訳ですね。
この主張の上では、見えない道徳性に配慮した上での”嘘”は、一定量の正しさがあると言えます。
たとえ相手を欺くことになっても、それが別の第3者への配慮、ひいては私たちの背後にあるもっと大きな”唯一の道徳法則”に則ったものであれば、嘘が正当化されるケースはあります。
契約と責任
私たちがその人生において契約に責任を持つのはどのような時でしょうか?
それは、その契約が「お互いに同意がともなうものである」か「お互いに便益があるものである」時です。
しかし、これはお互いが「対等な立場」にあって初めて機能するものです。
片方が高い交渉能力を持っていたり、知識の差があったりする場合は、どちらか一方が不利益を被ることになります。
現実の世界では、全く同じ条件のもとで契約を結ぶことはあり得ません。
この構造が、世の中に不平等を生み出しているのです。
そして、その格差を解消しようとする流れの中で生まれたのが能力主義です。
概要2:能力主義の限界
能力の高いものが、その力を振るって不平等を是正しようとする考え方のもと、能力主義はその立場を強めてきました。
社会的に大きな貢献をする能力が高い人間が、世の中の富を集め、その富を再分配する。
一見、理に適った論理に思えますが、これは格差を拡大させる考え方です。
結局、”能力”があるかないかを決めるのは社会なので、個人の能力の高低が、その時々の社会の在り方で簡単に変化してしまうからです。
能力を是正しようとする動きもまた、格差を拡大させていくのです。
「価値≒貢献」であるとするなら、多くの成功ケースは偶然の産物です。
なぜなら、本人の能力とは関係なく、社会が求めているものを偶々持っていたということが”能力”の有無を決めてしまうからです。
いつの世も、”価値”を生み出せる人間が強い。
世の中に求められている”価値”を的確に見抜いて行動できる人間が、成功者となっていくのです。
概要3:差別は是正されるべきか?
能力や出自による格差を是正するための取り組みが”アファーマティブアクション”です。
サンデル先生は、これにも限界があるのではないかと問いかけてきます。
ハーバード大学の学生は、そのほとんどが裕福な家庭の出身であり、また、長男・長女である率が非常に高いのです。
これは動かし難い現実で、出自や家庭環境が、個人の能力を支えていることの証明にもなります。
出自によって不利益を被ってきたと判断される学生には、入学試験の点数を人為的に操作するということが起きています。
これは不平等を産むでしょうか?
恵まれた家庭環境で育ってきた人にとっては、自分の実力を相対的に低く見積もられることにも繋がりますね。
格差の是正は、一方で不平等を産むのです。
だからと言って、現実に存在する格差を放置しておくのは間違いです。
大切なのは、格差を無くそうとする考えが、どこからやってくるのかを正しく捉えることです。
その出どころは3つ。
①是正:教育的背景の格差是正のため
②償い:過去の過ちを償うため
③多様性:教育的経験、ひいては社会全体のため
個人から社会まで、メリットをもたらす対象がそれぞれに異なります。
自分の支持する格差是正の背後にある”是正によって得られるメリット”が、どこに向かっているのかをt
概要4:目的論から出発しよう
この論点は”アリストテレス”の提唱した”目的論”をベースにしています。
サンデル先生は、この”目的論”を現代にあった形で復権させようとしているのです。
これは、社会的に価値があるものと判断する基準は、人の感覚や感性ではなく、その物事が十分に達成されるかどうかということを第一に考える論法です。
入試における格差是正について考えてみると、出自における点数操作が、その目的を正しく達成させることにかなった方法なのかを問うということが論点になりますね。
人間の取りうる行動や選択が、その目的において十分かなっているかどうかという考え方は、現代の政治哲学において忘れ去られています。
本書では、「最上級のフルートの目的は、最も良い演奏をなされることだ」といういわばフルート目線の目的論を展開し、人自体の目線から離れた考え方で、物事の価値を考えようとする試みが提案されています。
これは、物事に客観性を持たせるのに有効な視点であり、また直感的にかなり強力な説得力も持つ考え方でもあります。
興味深かったのは、アリストテレスが奴隷制を擁護していたという点です。
もちろん、その反論も含んだ上での主張ですが、社会構造の中でどうしてもそういった存在があるということは認めざるを得なかったということから、社会構造の持つ力強さというものが時代を超えて普遍的なものであるということも感じさせられました。
概要5:私たちの正義は共同体に根ざしている
サンデル先生が大事にしているもう一つの考え方が「コミュニタリアニズム」です。
これは、自分の思想・思考が共同体の中で作られるというものです。
人の思想は、育ってきた環境の影響が色濃く反映されます。
であるからこそ、狭い範囲(時代・地域の両方の面から見て)の共同体の考えに囚われるのは危険です。
自身のルーツがどこにあるのか?
その範囲はどれほどの広さを持つのか?
そして、相手のルーツはどこからきて、その範囲はどれほどの広さを持つのか?
「様々な人々と場を共にして、共同体を超えた”共通善”を探っていくこと」が、サンデル先生から私たちへの宿題です。
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まとめ
最後まで読んでくださってありがとうございます。
自分の思考の土台をひっくり返して、政治哲学に疑いを持つきっかけを提供してくれる本書。
「目的論」と「コミュニタリアニズム」の合わせ技で、現代の政治哲学に切り込むサンデル先生の主張を存分に味わえる内容でした。
ベストセラーになった「これからの正義の話をしよう」の源流にもなっている本書は、マイケル・サンデル入門編としても非常に価値の高い一冊です!
ぜひ一度手にとって読んでみてください!
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