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【感想まとめ】トラッシュ 【増島拓哉】

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こんにちは、よだかです。

小説「トラッシュ TRASH」を読み終えたので、感想をまとめていきます。

20代前後の若者の集団犯罪を描く物語で、何者かになりたいのだけれど何者にもなれない焦ったさがひしひしと伝わってくる作品でした。現状、充分に満たされていたとしても、本人がそれを受け入れられないのなら決して幸福にはなれないのだということを教えてくれる作品でもあります。

あらすじ

自殺サイトに集まった6人のメンバー。18〜20歳の彼らはそれぞれの抱える苦しみのもと集団自殺を試みるが、あえなく失敗してしまいます。しかし、仮にとはいえ「死」の一歩手前まで迫るという体験を共有した彼らには、ある種の絆が芽生えます。麻薬の売人に制裁を加えたり、過去に犯罪歴があるのに社会的に大きな罰を受けていない個人に私刑を下したりしながら、その様子の一部始終を動画サイトにアップロードして世間の注目を集めるなど、、、。犯罪行為に手を染める中で6人の想いが交錯し、やがてはメンバーの結束を破壊する大きな事件が起こります。

意思決定の責任は自分にある

物語の進行にあわせて、6人それぞれの視点に切り替わってストーリーが展開されていきます。それぞれの内面や過去が独白のような形で描かれていくのですが、正直6人の誰にも共感できませんでした。その共感のできなさが、物語を読み進める際に思考を深めるきっかけとなりました。どれも辛い過去かもしれませんが、自分の命を断つに値するのかと言われれば、そこまでのことではないように感じました。そもそも、自殺ということを集団のノリで選んでしまうような意思決定力の弱さに目が向いてしまいました。現状に満足できず、手に入らないものを追い求め、それを周りのせいにする思考が6人それぞれの中に巡っているので、誰の主張にも子供っぽさが目立ちます。

まさに現代の若者層が直面している大きな問題の一つなのかもしれないと感じました。自分自身の内面を覗き込んだときに、果たして彼らと同じような他責思考になっていないだろうか?自分の選んできた行動は、本当に責任を持って考え抜いた末のものなのだろうか?ということを改めて問い直したくなりました。自身の内面と向かい合う貴重な機会になったと思います。

誰かのせいにするのはラク

犯罪行為を通して自身を英雄化しようとするチームのビジョンもなんだか薄っぺらく感じました。犯罪に手を染める動機が到底納得できるものではないのに、なぜか手を下してしまう6人。安心できる土台がない彼らが最後に出したSOSが「犯罪集団として、世間から注目を集めること」だったのかもしれません。作中では、日々の何となく認められる経験や感謝を伝える行為・行動が全くといっていいほど出てきません。人間はすがるものがないと本当に選べなくなってしまうのだという部分が見事に描かれていたと思います。

強くあろうとするのは本当にしんどいこと。出来ることなら誰かの決めたレールに乗っかって、自分はできる限り何もせずに生きていけたら、、、。まさにこれが人間のもつ弱さであり、また同時に美しさでもあるのです。自分の存在を正当化するための理由が欲しい。今の自分がこうなってしまったのは周りが悪い。そうやって誰かを責めている限りは決して幸福になれないし、誰かに依存した幸福もすぐに消え失せてしまうのです。

生きることは苦しい?

考え方次第でどんなことにも幸福を見出せると言われます。確かにその通りだと思います。しかし、いつでもそんなことができるわけではありません。6人が人生に絶望したのには6人それぞれの理屈があって、それは彼ら自身にとって本当に切実な悩みだったのです。その苦しみとどう向き合っていくのかは、最後には個人でたどり着くしかありません

自分の悩みを生み出しているのは自分自身なのですから、解決策を外部に求めているようではいつまで経っても「誰かの考えた理想の方法」が手に入るだけです。答えは自分自身の内面にこそあるのです。もし悩んでいるのだとしたら、それはその悩みを適切に言語化する力が育っていないからなのです。

生きる力

では、悩みを言語化する力はどうやって育むのでしょうか?それは、今そのことに悩んでいない人から解決策を学んで新しい言語・解釈を手に入れることです。全く違う観点から悩みを解釈することで、悩みそのものが別の形に変わります。同じ悩みを抱えている人間同士では、共感こそあれ、解決策が出ることはどうやったってあり得ません。何故なら、悩んでいる状態が気持ち良いと感じているからです。人は悩みたくて悩んでいるのです。悩んでいる状態を望んでいる人間どうしで集まっていては、悩みは深まるばかりです。

ネット上で出会った彼らは、自分に共感してくれる存在を求めて一歩を踏み出しました。その結果、犯罪集団としての行動をエスカレートさせていくことに繋がってしまいました。自分の悩みを別の形で言語化してくれる存在がそばにいてくれたのなら、6人の未来はもっと明るいものになっていたのでしょう。適切に助けを求める力を欠く人が増えてきている現代、孤独を抱える人はますます増えていくのではないかと感じてしまいます。悩みを打ち明けられる相手を作ったり探し出したりする力は、生きる力と直結しているのです。

まとめ

この物語を読んで、自分の判断基準を持てないのはしんどいことなのだと感じました。昨今、物事を二元論で語る風潮がますます強くなってきているなぁと感じます。できるorできない、共感or反発、良いor悪い、、、。その基準は誰かの決めたものなのではないかと疑ってみると、自分だけの物差しを作るきっかけになります。私達は、ネットを通じて日々様々な情報に触れ続けています。多くの情報に触れられること自体は素晴らしいことですが、あまりにも多くの情報を鵜呑みにしてしまって、自分自身を見失うことも少なくありません。

発信力のある人の言い分はもっともらしく聞こえますが、彼らはあくまで他人です。あなた自身とは別の人間なのです。自分の中から出てきたものが今は屑〈TRASH〉のように思えても、それはそれであなたにとってかけがえのない価値があるのです。ひょっとすると、あなただけではなく他の誰かにとっても価値のあるものになるのかもしれません。救いのないストーリーの終わりに救いを求めたくなってしまう私が、これからの生き方を見つめ考えていきたくなる1冊でした。

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