どうも、よだかです。
外国から見た日本の未来、どのようにうつっているのかご存知ですか?
今回紹介するのは、エマニュエル・トッドの「老人支配国家 日本の危機」です。
人口統計学を専門とする歴史家エマニュエル・トッド氏が2013年〜2020年にかけて文藝春秋に寄せた原稿や対談などとまとめた本です。
歴史家エマニュエル・トッドが世界情勢をどのように捉えているのか?
日本は今後どのように振る舞っていくと良いのか?
海外在住の歴史家としての観点から、幅広い知見を見せてくれます。
特に興味深かった点を感想とともにまとめていきます。
GDPでは現実は見えない
国内の生産性を表す指標の一つがGDP。
これはご存知の方も多いですね。
この数字が現実を現しているのかどうかは、一旦落ち着いて考えてみる必要があります。
なぜなら、今はモノよりもサービスにお金が流れている時代だからです。
GDPが表すのは、あくまでモノの流通にまつわるデータです。
あなたの購入する商品は、最早モノだけに限ったことではありません。
例えば、一定額を課金して、月額見放題・使い放題になるサブスクリプションサービスは、生活の中にすっかり浸透しています。
CDを買う時代はとっくに終わり、電子データを取引するのが当たり前です。
モノの所有が必ずしも豊かさにつながらない時代になったということは、詳細なデータを出すまでもなく、多くの人が実感していることでしょう。
サービスを主体とする経済が加速する中、それを自覚して行動できている人がどれほどいるでしょうか?
サービスを提供する市場は、今もどんどん膨らんでいます。
かつてモノを提供する仕事は、その成果が誰の目にも明らかでした。
成果物や報酬が”物理的”に見えていたからです。
ところが現代では、その成果物は目で見て分かるところにはありません。
サービスや経験といった商品は、人の心の欲求を満たすことがその価値だからです。
モノを所有することが比較的容易くなった現代は、サービスの方に希少価値が出て、それを求める人が増えてきてるのです。
だからこそ、日本は産業基盤を再構築すべきです。
政府が主導して産業基盤の再構築に資金を投じる政策が必要なのです。
民主主義の原点
民主主義とは、その原初において一種の外国嫌いや国境の強調を含んでいます。
それが、イギリスのEU離脱や、アメリカのメキシコ移民への反発の原因となっているのです。
民主主義の起こりを考えてみると、その根幹には自分達の権利を保ちたいという思想があります。
では、誰に対して権利を保ちたいのか?
それは、権力者であったり、それ以外の自分の権利を脅かす存在であったりします。
「自身の存在を脅かす何者か」を設定していることが民主主義の前提条件です。
つまり、民主主義は「相手を設定して排斥する」という性質があるのです。
その性質なくして、自身の立場を保障することができないのです。
共同体を維持するために、仮想敵を設定する。
これは、現代民主主義国家の抱える課題です。
アメリカの様子に注目すると、大統領選挙の候補者が決まるまでの流れにも同じ構造が見られます。
例えば「イラン核合意破棄」でアメリカの内部対立は緩みました。
これは、本来アメリカ国内で生じていた問題を外部への責任転嫁という形で処理することで、アメリカ国内の世論をまとめ上げた例です。
筆者はこれを「前方への逃亡」として、危険だと警告します。
なぜなら、かつて第一次世界大戦が勃発した時も、国内で生じた問題を別の国に責任転嫁したことが原因だったからです。
国同士が関わりを持つ中で、異なる文化の間で複雑な関係性が生じてくるのは自然なことです。
けれども、現在起こっている問題が自国の責任において処理できるのであれば、それを国外まで広げていくのは好ましくありません。
目の前の問題を引き起こしている構造自体に目を向けて、安易に他責に走らないようにしなければならないのは、関わりのスケールが大きくなろうとも普遍の真理なのです。
【疑いながら、理解する!?】他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ【ブレイディみかこ】
問題は少子化と高齢化
日本に限らず、国力が衰える原因の最たるものは少子化と高齢化です。
国が発展してくために必要なのは、生産力です。
生産力を生み出しているのは、そこに暮らす人々。
先進国において肉体労働が生産力を担保する時代は終わりました。
知的労働の時代が到来しているのは誰の目にも明らかです。
これだけ情報化が進んだ時代に、わざわざテクノロジーを手放そうとする人はいないでしょう。
スマートフォンのない生活を社会が受け入れることはありません。
もちろん、一部の人は、スマホがなくても生活してくことは出来るでしょう。
けれども、多くの人はこれからもテクノロジーの進歩が加速する時代の中で生きていきます。
テクノロジーの発展に不可欠なイノベーションは、新しい情報が凝縮した時に起こりやすい。
つまり、少子化により絶対的な人口が減り、高齢化により新たな情報が集積しにくい社会においては、新しい発展は期待しにくいということになります。
このままでは、日本が衰えていくことは明らかです。
移民を受け入れよう
そんな問題の打開策として著者が提案するのは「移民の受け入れ」です。
政府が主導となって、移民を受け入れていくことを提案しています。
その際の注意点は6つ。
①少子化問題も並行して扱う
少子化自体は、日本の問題です。移民受け入れ政策を進めながら、子育てがしやすい環境や制度をより一層整えていく必要があります。移民の受け入れはあくまで繋ぎの政策。長期的な目線で、少子化を解消できるように未来をデザインしなければなりません。
②移民はずっと住むものだと心得る
移民は仕事を終えたら自国に帰ること当たり前だと思っているのなら、それは間違いです。中には本国の家族を呼び寄せて、日本に永住する人たちもいます。移民労働者は労働力を生産する商品ではありません。彼らにも家族がいるのです。
③移民にも文化的背景があることを心得る
これは、当たり前のようでいて見落とされがちな部分です。日本は島国であるため、移民を受け入れる経験自体が諸外国と比べて圧倒的に少なかったという文化的な背景があります。自分達の生活環境をできるだけ変化させずに生きてきたいわば「島国文化」が根強いのです。国民ひとりひとりが自国の歴史をきちんと学びその文化を理解することが、異文化理解の土台となります。
④同化主義の下で政策を進める
移民の文化を大切にするとは言っても、やはり彼らが暮らすのは日本という国。暮らす国の文化に合わせてもらうことも大切です。日本人の歴史には独自の二面性があり、それは「差異主義」と「同化能力」です。簡単にいうと、違いを区別しながらも相手をこちらの文化に寄せることができるということです。これは、日本の伝統的な家族構成に由来する考え方です。(因みに著者の考え方のベースには「伝統的な家族構成から国々の文化的背景を考察する」というものがあります)
⑤熟練した労働者の移民も受け入れる
技能労働者は初心者だけでなく、熟練した技術者も受け入れるようにします。技術を学びにきたという名目で入国したものの、職業訓練校には通わず、違法な労働環境で搾取され続ける外国人労働者のことが度々問題になっています。熟練した労働者は即戦力になるだけでなく、外国人労働者の地位向上につながる存在としても非常に重要です。
⑥出身国を多元化する
多様な国からの移民を受け入れるようにします。これによって、文化的背景を理解する機会が増えますし、日本が多様な諸外国の文化に触れる機会にもなります。また、日本という国が移民政策を通じて諸外国とフォーマルな繋がりを太くしていくことにもなります。
米英の世界牽引は続く
イギリスとアメリカは世界の発展を牽引してきましたし、これからもそれは変わらないでしょう。
なぜなら、この2国は進歩に必要な2つの要素を持っているからです。
それは「創造的破壊のマインド」と「人口の大幅な増加」です。
①創造的破壊のマインド
資本主義社会においては、イノベーションを起こすことが即ち国力増加に繋がります。
創造的破壊のマインドが形成されるのは、この2国の伝統的な家族形態が「絶対的核家族」だからです。
この家族形態においては、子供が必ず独り立ちすることを求められます。
親と同居せずに家を出なければならないことが暗黙のルールなので、小さい頃から”独立する”ことが当たり前の生活環境なのです。
②人口の大幅な増加
英語圏の人口増加は止まりません。
同じ言語体系を持つ文化では、その思考のクセも似てきます。
なぜなら、私たちは言葉によって世界を認識していて、その言葉が思考習慣を作るからです。
英語圏の人口が多いということは、それだけ思考の根幹を共有する人口が多いということなのです。
一方、EUなどのように共同体としての規模は大きくても、使う言語がバラバラであれば、それは真の意味で共同体として機能するのは困難です。
米国が孕む矛盾
米国は社会としては安定しています。
人口は増加を続けエネルギーはほぼ時給できていて、犯罪率の減少傾向にあります。
しかし、政治・社会・イデオロギーの分裂状態にある国です。
この原因は2つ。
①経済の基本論理に政治が合理的に対応していない
②言葉が現実から乖離していること
現状、学歴と左派が結びついているという皮肉が見られます。
これは学歴のある人が、そうでない人を見下しているから起こることです。
「エリート主義対ポピュリズム」といういう構図は、多くの先進国にも共通して見られる課題。
能力主義が行き過ぎている、もしくは中途半端であるが故にそうなってしまうのです。
米国の基盤はレイシズムにあります。
「”白人”という人種の範囲」を徐々に拡大させることで、少しずつ国の基盤を作ってきたという歴史的背景を持つ国がアメリカです。
実は、黒人の間にも階層化が進んでいるという現実があります。
一部のエリートに従う中間層・下位層という構図ができています
そのため、中間層以下の人々が、政権と繋がっている一部のエリート黒人が投票した候補者と同じ候補者に投票してしまい、結果不利益な政策が実施されてしまうということが起こっているのです。
また、トランプ大統領は、米中対立をうまく利用してアメリカ国民の心を動かしました。
統計学から見ると、中国の今後はアメリカほどの経済成長は期待できないため、アメリカにとっては時間をかければ必ず倒せる相手でした。
そのことをよく理解していたトランプは、ロシアに代わる相手として中国を設定し、米中の対立構造を導いたのです。
国々が争っている時に、その争いの表面だけを見るのではなく、各国の考えていることや文化的背景に目を向けるヒントになりますね。
まとめ
最後まで読んでくださってありがとうございます。
本書は7年間にわたるトッド氏の寄稿と対談の様子をまとめたものです。
彼がどんな立場からも世界の状況を考えているのかを大まかに掴むことができました。
枝葉の部分を読み込むと、やや混乱するかもしれません。
しかし、彼の主張の根底にあるものをうっすらと理解するためにはとても役立ちます。
彼自身の考察を深く知りたい方は、一つのテーマに絞って察をしている本を選んだ方が良いと感じます。
関連書籍のまとめをしたら、そちらも記事で更新していきます。
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