こんにちは、よだかです。
今回紹介するのは、ピーター・ディアマンディス&スティーブン・コトラー著「2030年 全てが『加速』する世界に備えよ」です。
テクノロジーが進化し続ける現代。
わたしたちを取り巻く環境は、とてつもないスピードで変化しています。
変化のスピードが激しすぎて、ほとんどの人はその凄さにすら気づいていません。
それもそのはず。
これからのテクノロジーの”加速”は、テクノロジーの組み合わせによって生み出されるものだからです。
一つの分野にだけ特化した知識では、未来を見通すことはできません。
本書が伝えるのは”コンバージェンス(融合)”の未来です。
テクノロジーが組み合わさることによって、これまででは考えられなかったような未来が訪れるのです。
経済、産業、医療、教育、食糧、、、。
テクノロジーが生み出す”加速”がもたらす未来と、それに伴う諸問題の解決法を述べる本書。
あなたの生きる未来にワクワクを与えてくれるおすすめの一冊です。
コンバージェンスの未来
コンバージェンスとは”融合”のことです。
これからは、個々のテクノロジーの発展だけでなく、それらが融合していく未来が訪れます。
テクノロジーの融合は、様々なことを一気に高速化させます。
代表的なものの一つは、交通革命です。
道路が整うことで、そこを通るものが移動するスピードは飛躍的に高まりました。
その道路を通るものも、初めは牛から馬、そして鉄道や自動車などへと変化してきました。
今後はさらに、自動車に代わるものとして、高速移動する技術が開発されています。
さらには、アバターを用いて、電脳空間に自身の情報を送り込むことで、移動時間そのものが0になる未来も訪れると予測されています。
一つ一つはシンプルな技術や発明であっても、それらが組み合わさることによって大きな加速を生み出すのです。
コンバージェンスは、本書の大きなテーマです。
エクスポネンシャル・テクノロジー
これは、指数関数的なテクノロジーを意味します。
ある時を境に、一気に物事が飛躍を遂げることが、テクノロジーの世界においても起こるとされています。
レイ・カーツワイルの著書「シンギュラリティは近い」では、2045年にコンピュータの性能が人間の知性を凌駕するという主張がされています。
今まさに、技術が次なる技術を生む時代に突入しています。
産業の統合が起こり、適応力のない存在は淘汰されていきます。
経済のエコシステムという流れで見ると、役に立たないものが排除されていくのは自然なことです。
この段階においては、労働者の再教育と社会制度の見直しが急務になります。
エクスポネンシャル・テクノロジーの成長は、6段階で定義されます。
①デジタル化
あるテクノロジーがデジタル化されると、それをデータで管理できるようになるため、拡散性と分散性が高まります。つまり、多くの人がそのテクノロジーに触れる土台が出来上がるということです。
②潜行
テクノロジーが世の中に出始めた時期には、それは一部のマニアの間でのおもちゃのような扱いを受けます。一部の熱狂的なファンが面白がってあれこれ触っては見るものの、世の中の期待にはまだ答えられない状態です。
③破壊
テクノロジーが本当の意味で、世の中に影響を与え始める時期です。すでにある製品やサービス、市場、産業が破壊されていきます。今まで機能していた様々なことが機能しなくなったり、有益であったものが役に立たなくなったりします。
④非収益化
それまでは高価だった製品やサービスにかかっていたコストが、消えてしまう段階です。デジタルに移行することでコストが限りなく0に近い状態で運営できるようになる製品やサービスがすでに数多くあります。
⑤非物質化
製品そのものが、物理的に消える段階です。スマートフォンなどは、様々な機能を搭載したデジタルデバイスの代表格ですね。一つのデバイスで、様々な役割をこなせるようになると、不要なものは淘汰されていきます。
⑥大衆化
テクノロジーの恩恵が、一般大衆にも広がっている段階です。日頃から利用している様々なテクノロジーは、すでに”大衆化”の段階にあると言えます。
VR(仮想現実)とAR(拡張現実)のもたらす可能性も無視できません。
通信の届く範囲内であれば、物理的な移動をせずにその場にとどまりながら、世界中あらゆる場所にアクセスすることも可能になります。
そういった未来では、”移動”という概念が大きく書き変わることでしょう。
また、3Dプリントによって多くの物が消費者の下に直接届けられる技術が整えば、製造業や運送業などといった仕事は、形態を大きく変えることになります。製品を購入したら、自宅の3Dプリンターから直接その製品が”作られる”ようになれば、今よりも圧倒的に高速な取引が可能になります。
これら以外にも、”ブロックチェーン”による分散台帳の機能拡散や”ナノテクノロジー”による肉体管理のパーソナライズ化など様々な分野で、加速する未来の可能性が示されています。
加速を生み出す”7つ”の推進力
加速を生み出す土台となる要因は7つあります。
①時間の節約
テクノロジーの進歩によって、時間が削減できるようになると、その空いた時間で更なるテクノロジーが開発されていきます。
1台のパソコンの起動時間が5秒早くなったとして、それを使う人間が1億人いたら、合計5億秒の短縮がなされることになります。
交通機関の発達や、短時間での製品開発や凝縮された情報発信などについても同じことが言えます。
時間の節約がなされることは、あらゆる加速の土台なのです。
②潤沢な資金
圧倒的な資金を注ぎ込むこと。
宇宙開発などの分野において特に顕著に見られる傾向です。
資金を注ぎ込んだ分だけ、そこに割かれる人員や資材などが増えます。
給与の高い業界に、人が集中するのも同じ原理です。
お金のあるところに人や物が集まります。
そして、人や物が集まる場所で、テクノロジーの進歩はさらに加速してきます。
開発のリソースを確保するという点で、潤沢な資金は欠かせない要素の一つです。
③非収益化
拡散に必要なコストの低下も重要です。
テクノロジーの拡散に必要なコストが下がるほど、拡散しやすくなります。
コストに対して収益を回収しようとすると、加速に歯止めがかかってしまいます。
なぜなら、目的のすり替えが発生するからです。
テクノロジーの開発・研究ではなく、利益の追求に傾くと、自由な開発・研究に制限がかかってしまうのです。
「収益を度外視した開発・研究の下地」を作ることが重要です。
④天才の発掘
世の中がインターネットでつながることで、埋もれていた才能がますます多く発掘されるようになってきました。
個人の発信が容易になったことで、自身の才能やコンテンツを宣伝できるチャンスに溢れています。
もちろん、全ての才能が絶対に日の目を見るとは限りません。
けれども、ほんの100年前までは0だったチャンスが今では0ではないという事実は、人類全体の規模で見ると決して無視できない加速を生み出します。
時代を動かすのは、ほんの僅かな数の天才たちです。
その才能が、今後もますます発掘されやすく、そして発揮されやすくなっていきます。
加えて、「脳科学」の進歩により、個人の資質やパフォーマンスを今まで以上に発揮しやすくなっていきます。
一人一人の人間が、自分の適性・可能性を認識して、その才能を発揮しやすくなる世の中が実現しようとしているのです。
⑤コミュニケーション
人が集まるところには、イノベーションが生まれやすい。
人々がアイデアを交わし合うことで、そのアイデアがさらに磨き抜かれたものになります。
今やその場が、インターネット上のあらゆる場所で展開されています。
2010年には、18億人がインターネットに接続していました。
2017年には、38億人が接続。これは地球人口の約半分です。
2030年までには、ほぼ全ての人類がインターネットに接続する時代が到来します。
地球全体がつながったネットワークで、どんなイノベーションが生まれるのか。
ネットワークの規模、密度、流動性も、更なる加速を生み出す推進力です。
⑥新しいビジネスモデル
現時点で、見えている新時代のビジネスモデルは7つあります。
1、クラウドエコノミー
すでにインターネットに繋がった数十億人と、これから繋がる数十億人を活用する仕組み。
依頼したい仕事を、クラウド上で共有することで、依頼者と受注者がスムーズに繋がることができるようになりました。
個人で行うものから、企業で展開する規模の大きなものまで様々な形態が実現しています。
2、フリー&データエコノミー
撒き餌のように無料のサービスや商品(データ)を配布して、そこにアクセスしてきた顧客の情報を収集するという仕組み。
無料という言葉に釣られてやってきた相手を顧客として獲得する手法は、インターネットが普及した現代、個人でも展開できるビジネスモデルです。
3、スマートネス・エコノミー
既存のツールに”スマート”を加えるエコノミー。
人の手がかからない自動化や個人の労働力に頼らない仕組みづくりなどは、今後ますますトレンドとして加速していきます。
過去、様々な商品が”電気”によって”次のフェーズ”に移行しました。(電動ドリルや洗濯機など)
その”電気”が、”AI”に代わってきています。
スマートフォン、スマートスピーカー、自動運転車、、、。
”AI”を取り入れたエコノミーは、ますます加速していくでしょう。
4、閉ループ・エコノミー
自然界には無駄なものは一つもありません。
全てが、大きな循環の中で緩やかに繋がっています。
この構造を取り入れた画期的な仕組みが”閉ループ・エコノミー”です。
製品の開発→購入→不要物の投棄・回収→それに伴って報酬を受け取る→リサイクル業者への販売→製品の再開発→・・・というループを作り出すことで、資源の循環を作り出すことができます。
すでにプラスチック・バンクという会社は、この仕組みを取り入れたビジネスを展開しています。
5、分散型自立組織
ブロックチェーンとAIの融合によって誕生する全く新しいタイプの会社です。
従業員も上司も存在せず、決められた運営プログラムの上でAIが判断をして操業し続ける組織です。
ブロックチェーン技術に支えられた自動運転タクシーの会社なら、年中無休での操業が可能です。
メンテナンスも自動化された工場で行われるようになります。
6、多重世界モデル
人々の存在する空間は、もはや現実世界にとどまりません。
拡張現実や仮想現実の中にも居場所を求める人々が増えてきています。
それらの空間の中で展開されるデジタルな商品への需要は、今後ますます高まっていきます。
プライベートとビジネスで自身のアバターを使い分けたり、自身のデジタル上のアバターのためにデジタル衣服やデジタル住宅をデザインしてもらったりすることもビジネスの一形態になっていきます。
7、トランスフォーメーション・エコノミー
在り方を変化させるモデル。
「自己変革経済」と言い換えることができます。
経験を通じて人生を変えることにお金を払う人が増えてきています。
人々が求めるのは「自己を変革させてくれる体験」です。
そして、このサービスをいかに早く提供できるかどうかが重要なのです。
⑦寿命の延長
人間の健康寿命を伸ばそうという試みです。
心臓病と癌の早期発見と治療の技術が進歩したことで、80代まで生きることが当たり前になりました。
今後、神経変異制疾患の治療法が見つかれば、平均寿命は100歳を超えるという見立てもあります。
寿命延長には、大きく3つのアプローチがあります。
1、セノリティクス薬(老化を止める)
分裂を停止した老化細胞を狙い撃ちして、組織の炎症(老化)を修復する薬の開発。
実験用のマウスに投与することで、健康寿命を35%伸びるというデータが出ているようです。
2、若き血(若返り)
2014年、スタンフォード大学とハーバード大学の研究者が、老齢のマウスに若齢マウスから取った血液を輸血する実験を行いました。
その結果、老齢マウスの衰えた認知機能が回復することが示されたのです。
これ以降、その成功因子を分析し、血液因子「GDF11」が、老齢マウスの心臓、脳、筋肉、肺、腎臓の機能を改善させることが分かっています。
人の身体にも応用できる技術の開発が期待されます。
3、幹細胞(新たに作る)
幹細胞の自己再生力と分化を調整し、骨や臓器や皮膚などを作り出す技術。
今後10〜12年の間に、寿命を延ばす技術は更なる発展を遂げる可能性が高いです。
よだか流・深掘り
理想の未来は自分で描け
本書は「楽観主義」というスタンスをとっています。
テクノロジーの進歩と融合が生み出す加速は、私たちの生活をより便利なものにしてくれるでしょう。
未来予測のモデルとして、輝かしくワクワクする未来を見せてくれる一冊でした。
けれども、その便利さが私自身の幸せにつながるかどうかを考えると疑問が生まれました。
全てが加速した未来において、私自身は”多くの人間が取り残されてしまう”ように感じます。
そこで過ごす人々は、その加速感を感じて生きているのでしょうか?
人は環境の生き物です。
かつてない加速の中に生きていても、その加速感に慣れていくでしょう。
”加速”とは、比較対象があっての概念です。
現在や過去と比べて、スピードが上がっているということを”加速”と定義するなら、”未来のその時点”に生きる人々が加速を実感しているようには思えないのです。
自分自身はどんな生き方をしたいのかを探り続ける楽しみが薄れる未来の到来は、味気ないもののように感じます。
そして、どれほどテクノロジーが融合して便利になっても、多くの人は本質的には今のままと変わらない与えられるものを享受する生活を送り続けるはずです。
なぜなら、人は変化を恐れ、多くの人がその気持ちにすら気がつかないまま生活しているからです。
AIの発達により、個別最適化した学びが実装化されたとしても、きっと多くの人は自分自身のストイックな成長やブレイクスルーは望まないでしょう。
脳は現状維持を好むため、発達したテクノロジーに知性さえも凌駕されて、意味上に自身の生物的な欲求を呼び起こされるづける生活が”加速”していくと考えられます。
誰かの描いた未来を生きるのではなく、自分で創造した未来を歩いていきたいものです。
加速しないもの
加速しないのは、人々の脳の構造や生活習慣・行動習慣、そして、地球全体のエコシステムや生命の歴史、物事の原理・原則です。
現在見られている”表面的な”加速は、地球という大きなスケールで考えると極々僅かなものです。
急激な変化には必ず揺り戻しが発生します。
環境問題が目立っているのは、人間が起こした過度の開発のしっぺ返しなのかもしれません。
地球というエコシステムそのものを加速させることはできません。
テクノロジーによる問題解決を期待して、現状を楽観視するのではなく、問題の出どころそのものを断ち切るように行動する必要があります。
テクノロジーによる問題解決は、更なる問題発生を生み出します。
私たち人間は、個体の寿命というスケールを超えてもっと大きなスケールで物事を見る必要があります。
テクノロジーの中身も分からずに生きていく人は、今後ますます増えていくでしょう。
加速が進む中で、命の定義も変わっていくことは充分考えられますし、これまでの倫理観も大きく変化していく可能性が高いです。
けれども、人間そのものの本質や物事の大きな循環は巡り巡ってあるべき姿に戻ってくるように思います。
視野を広げることで、目の前で起こっていることが一時の加速であるかどうかを見極めることができます。
ゆっくりなのも悪くない
そもそも、テクノロジーを発展させて加速を生み出す必要があるのはなぜなのでしょう?
それは、人間が「1個体としてのスケールで考えているから」だと思います。
確かに、生物として、1個体の寿命というスケールで見れば、100年ほどの人生の中で幸せに生きて死にたいと思う人がほとんどです。
それは、生物として当たり前の本能で、私自身もそこから逃れることはできません。
けれども、加速が進むほどに心の余裕はどんどんなくなっていくように思うのです。
全速力で走っていると、周りの風景を楽しむ余裕がなくなるのと似ています。
全てが加速する未来に、ゆとりや余裕はあるのでしょうか?
日々、加速のために加速し続けるのでは、本末転倒です。
テクノロジーの奴隷とならないよう、日々を丁寧に生きる心を忘れないで過ごしたいものです。
加速し続ける未来の到来は、避けられないと思います。
私自身、テクノロジーは好きですし、それらの恩恵に預かった多くの人がより一層幸せな未来を得られるようになってほしいと思います。
テクノロジーを加速させていく時には「その加速によって何が失われるのか」「その失われたものは、取り戻せるものなのか」を考え続けるクセを磨いていきたいです。
まとめ
最後まで読んでくださってありがとうございます。
本書の後半では、”加速する未来”がもたらす様々な問題とその対策についても述べられれています。
テクノロジーの発展がもたらす未来像を描いた本書。
単なる未来予測にとどまらず、読者に考えるきっかけを与えてくれる内容です。
おすすめの本ですので、ぜひ手に取ってみてください。
【未来をつくる全ての大人へ!】学びと生き方を統合する Society5.0の教育【柳沼 良太】