こんにちは、よだかです。
今回はメアリアン・ウルフの「デジタルで読む脳×紙の本で読む脳」の紹介です。
あなたは、紙媒体とデジタル媒体のどちらが読むのに適していると思いますか?
デジタル技術の発達が加速している現代。
私たちは、デジタルと紙の両方を使い分けながら文字を読んでいます。
どちらが正しいのか・効果的であるのかという論争もありますが、私自身はそれは正直無駄だと考えています。
それよりも、それぞれの長所・短所を正しく理解して、上手に付き合っていく方が良いのです。
本書は、読む時に脳内で起こっていることやデジタルと紙で読むことが幼少期の脳にどんな作用を及ぼすのかなどについてまとめられています。
読者への手紙という形式で綴られる本書は、正直読みにくい部分もたくさんあります。
しかし、読むという行為そのものを考えさせるためにあえてこの形式を取っているのです。
ですから、この本の要約を読むことは、あくまで本書のガイドラインを手に入れた程度の学びでしかありません。
手に取ってじっくりと時間をかけて丁寧に読むことで、読者の思考が回ることにこの本の価値があります。
難しい内容ですが、ぜひ手に取って読んでみて下さい。
きっと、読むことに関する認識に新しい光をもたらしてくれるでしょう。
自身の思考を磨きたい方にオススメの1冊。
それでは早速紹介していきましょう!
文字を読むときに脳内で起こっていること
人の脳は元々、文字が読めるようにできているわけではありません。
文字を読むという機能は、新入りの機能なのです。
言語機能とは異なり、読み手固有の言語環境と学習条件によって変動するものなのです。
字を読むためには、脳の中で3つの機能が関連しあって働きます。
視覚、言語、認知・感情です。
見たものを言葉と繋ぎ合わせ、記憶や感情を呼び起こすというプロセスがあるのです。
文字を読むときの流れ
①注意を向ける
この時、見るべきものの選択をしています。視界に入るものの中から「見ないもの」を排除し「見るもの」を絞ります。
②形を認識する
文字の形状を捉えます。これまでにみたことがあるパターンの中から、どれに一致するのかを瞬時に判断します。
③音・音素を結びつける
認識した形状が、どんな音・音素と結びつくのかを照合します。この段階で初めて、文字の形と発音が結びつくのです。「あ」を「”あ”という音」として認識するということです。
④意味・連想すべきものにつながり一気に広がる
①〜③までに起こったことを統合して、過去の経験からその文字にふさわしい記憶や感情などをありったけ動員します。脳内の膨大なデータベースから、認識した文字に対応する記憶・意味・感情全てを候補に挙げます。
⑤絞り込む
最後に、それらの候補の中から最も相応しいと思われるものを選択肢します。この段階で、ようやく文字の意味が決まるのです。
文字を読むという一見単純な作業であっても、実はこれだけ複雑で多様なステップを踏んで、達成されるのです。
深い読みのメリットとは?
深い読みができるようになるには、何年もかかります。
大人であっても日頃からほんのちょっとだけ時間をかけて鍛えていく必要があります。
文は感じられる思考である
文を読むことで、読む時にイメージを作る能力や共感力・他者の視点になる心象の力を身につけることができます。
自分を目の前の現実から内面的な場所へ移すことは、何歳になっても可能です。
共感の力は読書によって充分に獲得可能です。
しかし、その力を得た上で検討せざるを得なくなってからの努力が不可欠です。
共感とは、他者を掘り下げて理解することであり、つながりが強まる世界では欠かせないスキルでもあります。
【疑いながら、理解する!?】他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ【ブレイディみかこ】
フィクション作品を丁寧に読むことを指示された学生は、感じることとすることの両方に対応する脳の領域が活性化したという研究データがあります。
丁寧に読むことは、深い読みを導きます。
他者への共感力が著しく低下する現代の若者に向けて、深い読みを獲得させることは、無関心を薄めて高慢と偏見を消す優れた手段の一つとなります。
共感を支えているのは、背景知識です。
これは、自分自身の知識ベースと言っても良いでしょう。
この背景知識が外部に移っているのが現代人の特徴です。
語彙が豊富な人がどんどん語彙を増やし、語彙の貧相な人はますます語彙が貧しくなる原因がここにあります。
チャンスは準備ができている人の心にのみ訪れる
平凡なもの同士を結びつける類推の力も重要です。
現代人は批判的思考の土台を持っていません。
その原因は2つ。
①知性による指針がないこと
②疑念を許さない考えへの固執
背景知識と共感、推論と批判的思考が重なり合って初めて、深い読みができるのです。
先人たちの考察を土台にして、自分の頭で考えること。
絶え間ない努力による実践が必要です。
デジタルチェーン
デジタルでの読みは様々な弊害を連鎖的に引き起こします。
①どれだけ読むか
デジタルで読むと、一見多くの情報を読んでいるように感じますが、それは部分的に情報を拾っているだけで、細部まで読んでいるわけではありません。一度に大量の情報が入っていくるデジタル媒体での読みからは、深い読みを導くのは難しいのです。
②どう読むか
必要な情報だけをお手軽に拾おうとするスタンスで読むと、思考は受動的になります。これを繰り返すと、情報を読み取ろうとする力が低下していきます。
③何を読むか
デジタル媒体で読むと、読むものを選択することが困難になります。紙媒体に比べて「読むための過剰な手助け(ガイドラインやページビュー)」や「様々な不必要な刺激(広告や通知など)」の影響で一か所に集中することが妨げられるからです。
④どう書かれるか
読むことが不得意になると、書くことにも悪影響が出ます。内容について理解した文章を書く力も著しく低下します。
外部の知識源への依存
デジタルで読むことは、非常に手軽です。
画面いっぱいに溢れる情報は、私たちの読む量を圧倒的に増やしました。
平均的なアメリカ人の1日に読む量は、本一冊分とも言われ、明らかに情報過多の世界に生きていることを示唆しています。
しかし、紙とデジタルでは記憶の定着に大きな差が生まれます。
デジタルで読むと、細部情報が曖昧になったり、記憶の順序が悪化したりするという研究データがあるのです。
デジタルでの読みは身体感覚を伴いません。
触覚を伴わないデジタルでの読みが浸透した現代。
過去10年間で、私たち人間の平均記憶能力は50%も低下したという研究データもあります。
知識は学びの土台です。
学び続けることが学びをより加速させます。
使われない脳機能はどんどん衰えていきます。
字を読むということは、脳の機能を複雑に関連させていく営みなので、読むことが苦手な人は書くことも苦手になっていきます。
自身の中に知識のデータベースを持たず、外部のデータベースに依存するようになると、深い読みはできなくなります。
ネットで検索すれば何でも分かってしまうという思い込みが、脳に「記憶しなくても良い」という錯覚を与えます。
すると、思考そのものへの耐性が著しく低下し、脳は思考するツールとしての機能を徐々に失っていくのです。
【ビジネスパーソンの必修科目!】仮説思考 BCG流 問題発見・解決の方法【内田和成】
子育てで注意したいこと
デジタル媒体での読みは、幼い子どもの脳に悪い影響を与えます。
とはいえ、この情報化社会においてデジタルから完全に分離させてしまうとは現実的ではありません。
重要なのは、紙・デジタルの両方において、その性質を正しく理解してふさわしい読み方ができるバイリテラシー脳を育てることです。
脳の機能が未発達で読むための脳機能が発達するまでは、デジタルに依存しないことが大切です。
子育てをする上で、意識すべきことは3つあります。
①2歳までは、デジタルを制限する
乳幼児期の認識は、大人のそれとは全く異なります。
あらゆる刺激を感覚を統合しながら受け取っている0〜2歳までの間は、脳機能の発達における重要な時期です。
デジタル機器の使用を限定し、有機的な刺激をたくさん与えて、脳機能の基礎を育む必要があります。
②2〜5歳の間は、親子で読み聞かせをして、毎晩物語を読んで聞かせる
読み聞かせは、文字を読むベースとなる音素の認識を飛躍的に発達させます。
記事の冒頭で述べたように、文字を見ることによって呼び起こされる認識の中に音が重要な要素を占めることが分かっています。
読み聞かせをすることで、子どもの脳内では様々な発達に繋がる刺激が発生しているのです。
また、物語から学べる人間の情緒やストーリー展開そのものも記憶能力や言語能力の獲得に大いに役立ちます。
脳機能を発達させるために、読み聞かせは大変有効なのです。
③教育アプリの使用には慎重になる
親は、教育アプリを使う前に、親がそのアプリを正しく評価できるサイトなどから情報を集めましょう。
そして、アプリをインストールしたら、まずは最初の数分間だけ、子供と一緒に使って遊んでみましょう。
実際にそのアプリが楽しいものなのか、有益なものなのかを判断することができます。
巷に溢れる教育アプリはとても便利です。
しかし、数が多すぎて、選びにくくなっているのも事実。
保顔者が、子供に寄り添ってより良いものを選んでいくことも大切です。
【未来をつくる全ての大人へ!】学びと生き方を統合する Society5.0の教育【柳沼 良太】
よだか流・深堀り
読むという行為は贅沢
「文字が生まれたのは、何故だろう」という疑問が沸きました。
誰かが必要に迫られて生み出したのか?
それとも娯楽の延長で趣味として生み出したのか?
私は、後者だと考えます。
人間以外の生物は、文字という道具を使いません。
こんなにも複雑な道具を使うことのメリットは、知的欲求を満たすことに他なりません。
本来、生物として生存するための機能として見れば、文字の必要性はほとんどありません。
人間は、より贅沢に、より豊かに生きるために文字を活用しているのです。
生き方の幸福度を上げるために文字は存在しています。
読むという行為が生存に付加価値をつけているのだとすれば、読むことは最高の贅沢の一つなのです。
生存の定義が変化してきた
地球環境の中において、絶滅の危機からはほぼ開放されてしまった人間という種。
環境を作り替えることで外部を自分達に適応させるという行為は、最強の生存戦略の一つ。
外部世界をあらかた作り替えることができてしまったため、今度は内部世界の開拓に乗り出し始めたのかもしれません。
現時点で、文字や言葉は思考や内面を顕在化させる最高のツールの一つです。
私たちは、文字に書かれたことで世界を認識しています。
今この瞬間も、様々な現象や存在を文字や言葉に置き換えることで現実を認識しているのです。
その認識をより良いものにするために、つまり認識する現実を書き換えるために文字というツールを活用しているのです。
種として滅びないという目標をクリアしてしまった私たちは、内面世界をより豊かにするという生存のステージに立っているのかも知れません。
文字・言葉と種としての本能の関わりを今後も探り続けていきたいです。
まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回まとめたのは、本書の一部です。
本書の後半では、デジタルと紙の両方で読むことのできるバイリテラシーの育て方についての提案があります。
紙とデジタルの両方で読める環境が子どもの脳に与える影響。
その環境で、読みの力を正しく伸ばすために私たちにできることは何なのか?
興味を持った方はぜひ本書を手に取ってみて下さい。