こんにちは、よだかです。
今回は、森口佑介さんの「子どもの発達格差 将来を左右する要因は何か」を紹介します。
本書は「乳幼児期に適切な支援をすることの大切さ」と「そのための環境設計」について述べた本です。
端的にいうと、「現在、子どもの発達格差が問題になっていて、それが子どもの将来や国づくりを大きく左右するよ」ということを分かりやすく伝えてくれる本です。
・子育てに携わる方
・児童教育に携わる方
・教育の未来に関心がある方
には、ぜひ読んで欲しい一冊です。
様々な実験データや論文などを元に展開される内容は、ものすごく有益!
新書形式で、章ごとのまとめもあり、内容もスッと頭に入ってきます。
著者紹介
森口佑介。発達心理学者。京都大学大学院文学研究科准教授。子どもを対象に、認知、社会性、脳の発達を研究している。教育に関しては、学部生には子どもの発達に関する知識や考え方を教養として身に着けてもらうこと、大学院生には、共同研究の中で、発達に関する新しい知識や考え方を生み出してもらうことを目指している。保育園・幼稚園など子どもに関わる仕事をされている方への講演等を通じて、研究成果を発信し、子どもの発達に関する理解を促進するよう日々邁進している。忙しい中ではあるが、各種委員会にも参加し、大学の環境改善に勤しんでいる。
本書の内容と気づきを
「今、発達格差が問題!」
「実行機能と向社会的行動」
「発達格差を生み出す原因」
「発達の段階を見る」
「これからの支援」
「よだか流・深掘り」
の6項目でまとめていきます。
今、発達格差が問題!
あなたは、子どもの発達格差と聞くと、どんなことを思い浮かべますか?
「格差とは大げさだなぁ」
「子供にはそれぞれの成長スピードがあるでしょう」
「発達に格差なんてあるの?」
そんな風に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、この発達格差という言葉は、最早、その重要性を知らないでは済まされない言葉なのです。
本書では、「発達」とは身体、精神、脳における時間に伴う変化のことと定義しています。
特に掘り下げていくのが、行動、精神、脳の発達についてです。
確かに、発達には個人差があります。
生後半年で寝返りができるようになる子どももいれば、生後9ヶ月で初めて寝返りができるようになる子どももいます。
言葉の出始めや、ハイハイや立ち歩きなどに始まり、ある能力を早く発達させる子どももいれば、遅く発達させる子どももいます。
これらのように、標準的な発達においては、その差が問題にならないものもあります。
しかし、いくつか能力の個人差には、子どもの将来に重要な影響を与えるものがあります。
それが、実行機能と向社会的行動です。
現代においては、この2つの発達に格差が生じてきているのです。
この問題を放置すると、子ども自身の将来の健康や経済面に大きな格差が生まれる可能性が高まります。
実行機能と向社会的行動
自分をコントロールする力
実行機能とは、目標に向かって自分をコントロールする力のこと。
実行機能が高い子供は、健康面や経済面で優れた結果を出しやすいことが分かっています。
大人になった時に肥満や高血圧になりにくく、お酒の飲み過ぎなどにも気をつけることができます。
タバコや薬物に依存することはなく、犯罪を起こす可能性も低いことが明らかになっています。
また、年収が高く、貯蓄の額も大きく、さらには、医師や弁護士などの社会的地位が高い職業につきやすい傾向にあります。
日本の子どもにおいては、5歳前半時点で、実行機能に格差がある可能性が示されています。
実行機能が高いと、現在の自分の行動を律して、将来良くなる方を選ぶことができるようになります。
実行機能の高さは「未来に向かう」行動につながると言えます。
他者への思いやり
向社会的行動とは、他者を思いやる行動、日常生活でいうところの思いやりです。
友達や知り合いに親切なことをしてあげたり、自分のものを分け与えてあげることが含まれます。
誰かの役に立とうとして自分から行う行為全般に当てはまります。
向社会性が高いと、自分よりも他者を優先できるということです。
他者を優先することは、将来的に自分に利益をもたらすかの性があることを考えると、向社会的行動とは「未来に向かう」行動と言えます。
向社会的行動ができる子どもは、様々な恩恵を受けることができます。
親切な行為をすると幸福感が高まるので、ポジティブな生活を送りやすくなります。
また、友達に親切な子は、友達や教師に人気があるため、多くの支援や教育資源を受け取ることができます。
それによって、9歳前後の学力が、同期の子供と比べて高くなる傾向があります。
また、身体的にも健康であることが分かっています。
イギリスで3000人の子どもを調査した結果、9歳時点で向社会的な行動傾向を示していた子どもたちは、17歳時点での循環器系の問題が少ないことが分かっています。
「未来に向かう」方が有利
実行機能と向社会的行動。
どちらも「未来に向かう」行動です。
子どもは本来、「今を生きて」います。
発達に従って、記憶が発達し、時間の概念を獲得し、過去だけではなく未来のことを考えられるようになるのです。
将来有利になるのは、「未来に向かう」子どものように思えます。
このような発達の違いはどこから生まれてくるのでしょうか?
発達格差を生み出す原因
発達格差を生み出す原因は、「周りの他者への信頼」と「貧困」です。
マシュマロテストは、信頼の指標
あなたは、マシュマロテストをご存知でしょうか?
マシュマロテスト
お腹を空かせた子どもの目の前に、マシュマロを一つ置きます。そこで子供は、実験者から「目の前にある一つのマシュマロを食べてもいいよ。でも、15分待ったら、マシュマロを2つあげるよ」と告げられます。その後、実験者は部屋から出ていきます。子どもは、「今すぐ食べたい」という気持ちと「少し我慢すれば、マシュマロが2倍になる」という事実との間で揺れます。子どもはどういう行動を取るでしょうか?
これは、マシュマロを食べるのを我慢した子の方が、将来、社会的な成功をおさめる傾向にあることを示した実験です。
ところが、この実験結果を深掘りしてくと、2つ目のマシュマロを手にいれた子どもは、総じて「他者への信頼傾向が高い」子どもであることが明らかになったのです。彼らは「自制心が強い(=実行機能が高い)」のではなく、「実験者を信頼できる」子どもであったということです。
マシュマロテストの成績が良い子どもは、他者のことを信頼し、他者との関係性が良好であるため、後の問題行動も少ないのです。
ここで重要なのは、実行機能や向社会的行動を発達させる前から、他者への信頼は発達し始めるという点です。
つまり、他者への信頼は、実行機能と向社会的行動の土台となっている可能性が高いということです。
他者への信頼が育まれる環境で育った子どもは、「未来を生きる」傾向を強めていくことができます。
しかし、食べ物が不足してたり、他者への信頼が不足していたりする環境では、子どもは「未来に向かう」ことが難しくなります。
貧困が生むダメージ
食べ物などの物理的な不足と、他者への身体などの社会的な不足の両方と深く関連するのが貧困です。
物質的な不足と社会的な不足は、子どもの発達に著しいダメージを与えます。
経済的に苦しい家に育った子どもは、他者を信頼して相談することが、家族であっても難しい現状にあります。
また、貧困によって生じる生活面でのストレスは、脳の前頭前野の働きを妨げるという研究結果があります。
この部分の働きが弱まると、言語能力や時効機能に悪影響が出る可能性があります。
ここで注意したいのが、「今を生きる」子どもと「未来に向かう」子どもとを比べて優劣をつけてはならないということです。
子どもは本来、「今を生きて」います。
自分が生きる環境に適応しようとした結果が「今を生きる」ことならば、「未来に向かう」ことを選択させようとする行いは、その子たちにとって、短期的にはマイナスの影響を与えかねないのです。
子どもは受け身の存在ではありません。
「同化」と「調和」によって、自ら周りの世界に溶け込もうとする存在です。
子どもの能力を支援していくだけでなく、子どもの育つ環境も支援していくべきなのです。
発達の段階を見る
幼少期の発達の中核になるのは「アタッチメント」です。
これは、「養育者とのやりとりを通じて形成される絆」のことです。
「アタッチメント」を基盤として、自分や他者と折り合いをつける力を獲得していくのです。
自己や他者との程よい距離感を保つためにも、必要な力と言えるでしょう。
【疑いながら、理解する!?】他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ【ブレイディみかこ】
実行機能の発達
実行機能には、思考面と感情面の2つがあります。
興味深いのは、感情面の実行機能が青年期には一時的に働きにくくなるということです。
(思春期に起きる性ホルモンの影響があるのではないかと考えられています)
思考面の実行機能 | 【役割】「習慣の制御」
日常的についついやってしまう行動を制御する。 日頃の習慣によって無意識にやってしまう行動や選択されやすくなった行動を制御する。 【発達の特徴】 幼児期に著しく発達し、児童期から青年期にかけて緩やかに発達する。 成人期以降に加齢の影響を受け、能力が低下する。 |
感情面の実行機能 | 【役割】「気持ちの制御」
本能的な欲求や感情をコントロールして、目的を遂行する。 【発達の特徴】 幼児期から児童期に大きく成長する。 青年期では、一時的に低下して、衝動的な行動を抑えるのが難しくなる。 |
向社会行動の発達
向社会的行動は、他者に対する「共感(他者に起きたことを自分の身に起きたように感じること)」から生み出されます。
募金、寄付、被災地でのボランティアなどが挙げられます。
「共感の種」は、2歳ごろまでに徐々に育まれていきます。
様々な研究結果から、「子どもは他者を助けることに、内発的に動機付けられている」のではないかと考えられています。
つまり、人は本来、「誰かを助けたい」と思う性質が備わっているのですね。
ただ、注意しておかなければならないことがあります。
それは「成長するにつれて、助ける相手を選ぶようになる」ということです。
自分に意地悪な働きかけをする相手には、親切な行動を取ることが減っていくことが明らかになっています。
日頃から、相手に親切にされていると、子どもの向社会的行動はどんどん増えていきます。
逆に、日常的に相手が親切にしてくれなければ、向社会的行動は取りにくくなるのです。
また、向社会的行動も、青年期には一時的に減少する傾向にあることが分かっています。
これからの支援
具体的にできる子どもへの支援
身体的・心理的な虐待やネグレクトを避ける
保護者が、子どもの様子に敏感に反応し、アタッチメントを形成する
子供が自分でできないことを、周りの他者が少しだけ支援する
温かい声で子どもに声をかける
厳しさと温かさのバランスを意識して関わる
子どもの「行動」を褒める
テレビの付けっぱなしは止める
夜は眠る・睡眠時間を確保する
よだか流・深掘り
正解は、自分で決める
本書を読んでまず思ったことが、教育に携わる人たちが学び続けられる環境づくりが必須だということです。
これは、どの仕事においても言えることですが、学びを辞めたらそこから衰退が始まります。
子育てや教育に携わるということは、人を育てて文化を創るということ。
大人になっても学びを続ける人は、人生が充実します。
そんな大人の姿を見て、子供も学びたくなるのではないでしょうか?
現場の状況や世の中は刻一刻と変化していきます。
マシュマロテストの解釈も以前は、自制心の強さがその後の人生に良い影響を与える例として挙げられていたのに、本書の中では、その内容や解釈にさらに踏み込んでいました。
時代の流れとともに物事の解釈は深まったり変わったりします。
正解は、いつだってその時々のものであって、普遍的に変わらないものなどほとんどありません。
唯一絶対の正解があれば、それほど楽なことはありませんが、残念ながらそうではない。
一時期は、学力が高いことがステータスでしたが、現代はAIとの共存の時代。
テストで高い点数を取ることが、価値を持ちにくくなってきています。
価値観や道徳観も、時代によって間違いなく変わっていきます。
今、正しいとされていることが、自分の心から湧いて出たものなのか、時代の流れによって作り出されたものなのか?
人を育てる立場にある限り、絶えず問い直さなければならないことだと感じました。
どんな未来があるのか思い描く
とはいえ、理想のあり方を描いただけではいけません。
考えて、決めて、行動すべきことはたくさんあります。
具合的にどんな行動をするのか?
今日からできる小さな一歩な何か?
必要な情報が、それを必要をしている人に届いているのか?
デジタル化の進む現代、情報ににアクセスできる人とそうでない人の格差は開いていく一方です。
大切なのは、情報を様々な媒体で発信すること。
それを、ひとりひとりができる範囲で行うこと。
本書から得た気づきや学びは、子どもだけでなく、世の中の格差を小さくしてく一歩になると強く感じました。
子どもは宝。
子どもの格差をなくすことは、世の中の格差をなくすこと。
すぐにはできなくても、ひとりひとりがちょっとずつ努力することで、より良い世の中を創っていくことができます。
本記事が、本当に必要な人のもとに届くきっかけになると良いなと思います。
まとめ
最後まで読んでくださってありがとうございます。
世の中を変えていく第一歩を踏み出すきっかけをくれる素敵な本でした。
子どもの発達格差を生み出している現状を少しでも変えていくことの大切さを伝えてくれる内容です。
おすすめの本ですので、ぜひ手に取っていただけたら幸いです。
【未来をつくる全ての大人へ!】学びと生き方を統合する Society5.0の教育【柳沼 良太】