どうも、よだかです。
「世界で最も強い国はどこか?」という質問にあなたは答えられますか?
きっと多くの人が「アメリカ」と答えるでしょう。
そのアメリカがどのようにして自らの地位を獲得するに至ったのかに切り込むのが本書。
エマニュエル・トッドの「帝国以後 アメリカ・システムの崩壊」です。
2003年出版の本書。
歴史家トッド氏の知見に触れて、現在の社会を考察するのに役立つ内容です。
この本・記事はこんな人におすすめ
・アメリカの行動様式を知りたい
・なぜアメリカは力を持つに至ったのかを知りたい
・歴史学者がどのように考察モデルを作るのか知りたい
エマニュエル・トッドってどんな人?
フランス出身の歴史学者。
歴史家としてのキャリアは長く、その圧倒的な知識量を視野の広さや深さから、これまでも世界情勢のいく先を度々言い当てていて「預言者」と称されることもしばしば。
親日家としても知られていて、日本に関する発言や寄稿なども多い。
文藝春秋に寄せた原稿をまとめたものが「老人支配国家 日本の危機」として出版されている。
↓本書の紹介とまとめはこちらから
【突破口は”移民の受け入れ”】老人支配国家日本の危機【エマニュエル・トッド】
アメリカの行動様式
アメリカの行動様式は、大きく分けて3つの特徴があります。
①敵を作り続ける
②解決しない
③兵器のプロモーション
アメリカの戦略は「諸外国に対して、危機を作り出す」というものです。
順番に見ていきましょう。
①敵を作り続ける
テロ行為を働いたイスラム圏の国に対して、圧倒的な軍事的制裁に乗り出したアメリカ。
これは全世界的テロリズムを認知させることになりました。
イスラム圏でのトラブルは、歴史的な背景や大きな流れの中でみると、移行期間特有の現象です。
通常国が発展していくときに「識字化(多くの人が文字が読めるようになる)→革命(知恵を付けた民衆が支配者を倒す)→出生率の低下(経済基盤が安定するので、子供を増やさなくても良くなる)」という過程をたどります。
この過程で、必ず危機が生じます。
イスラム圏で起こった機器も、この構図に当てはめることができるのです。
確かに、アメリカに向けて行ったテロ行為は決して許されるものではありませんし、多くの人の命が失われていることは事実です。
けれども、今回の状況をアメリカがうまく利用して、イスラム圏への攻撃材料にしたという見方もできるのです。
②ロシアを倒さない
実は、大国を完全に倒し切らない方が都合が良いのです。
アメリカは、その経済圏の基盤を自国に持ちません。
現実のお金は、ヨーロッパやアジアにあるのです。
実は、アメリカは経済的には諸外国に依存している国なのです。
ロシアと敵対関係にある限り、アメリカがロシアを押さえつける役割を担うことになり、それはヨーロッパ諸国へのある種のメリットをもたらします。
それは、地続きのロシアが侵攻して来なくなるというメリットです。
帝国アメリカとして君臨することで、遠くから牽制する存在としてのポジションを獲得する。
これは、現在のアメリカと中国の関係性からも見て取れます。
③兵器のプロモーション
このように意図的に戦争のトリガーを残しておくことで、兵器のプロモーションをする口実ができます。
ここでいう兵器とは戦術核以外の兵器も含めます。
現代では、情報が命というべき時代です。
この情報戦略でも圧倒的強者のポジションをキープするアメリカ。
”敵らしきもの”が存在し続ける限りは、強さを誇示できるのです。
アメリカが取る行動様式は、歴史学の視点から見ると「帝国」の在り方です。
帝国の条件
しかし、今後このアメリカの体制は崩れていくことでしょう。
それは、アメリカが帝国の条件を満たしていないからです。
帝国として君臨する条件は2つ。
①強制力が徴収を可能にする
②普遍主義が全ての臣民に対して発展する
どう満たしていないのか、順番に見ていきましょう。
①強制力が徴収を可能にする
アメリカの徴収は不安定です。
資本主義の中で力をつけてきたアメリカは、その力の源泉を流動性の高い金融資本においています。
金融フローが変動するもので実体がありません。
現在、金融フローの源泉となっているのはヨーロッパやアジアです。
それらの国々からのフローが途絶えれば、アメリカの経済は立ち行かなくなってしまいます。
自国の中に経済基盤を持たない国は、帝国として長く君臨することはできません。
②普遍主義が全ての臣民に対して発展する
アメリカは、根底的には差別主義があり、普遍主義を持ち得ません。
建国のマインドそのものが、誰かを悪者にして他の集団を同化させていくというものだからです。
インディアンや黒人を差別することによって、アイルランド人、ドイツ人、ユダヤ人などのをまとめ上げてきたということからも明らかです。
帝国として振る舞う限りは、国内の臣民を等しく尊重しなければならないのです。
対外的には強行姿勢を示しても、身内のことは絶対に守り通すのが帝国の在り方です。
アメリカが帝国としての振る舞いを意図的に選んだとは思えません。
これまで成り行き任せに行動してきた安易な選択の連続が今の事態を招いたのです。
アメリカには長期的な視点がなく、その日暮らしの決断をしているに過ぎません。
様々な生産資源の輸入などをはじめとした外交に見られるように、本来自国内に資源を持たないアメリカは、その脆弱さがバレないよう、帝国的に振る舞うことで現在の地位を築いたのです。
ロシアの回復
ロシアは、今後回復していく可能性もあります。
自国内に豊富な生産資源を持ち、労働人口の教育的水準が高い国だからです。
また、周辺諸国のモデルでもあり、ロシアが回復することで、周辺諸国も活気付くでしょう。
経済も長い目で見れば安定する可能性があります。
なぜなら、ロシアの文化の根底には「受容」のマインドがあるからです。
しかし、人口危機に陥っていることが最大の問題点です。
人口の多さは、生産力に繋がります。
また、政権を握る高齢者層が既得権益を手放すとは考えにくいです。
現体制を維持する限り、ロシアの回復は難しい。
これは、ロシアのみならず、高齢化社会に向かっていく国々に共通する課題だと言えるでしょう。
他国の復権
ヨーロッパや日本はアメリカに対して複雑な思いを持っているでしょう。
今でこそ、それぞれが独立するだけの力を回復させて先進国として振る舞ってはいますが、かつてはアメリカに助けられてきたという事実があるからです。
世界史の中で見ても、圧倒的な敗北をしていないのはアメリカとイギリスくらいのものです。
(厳密にいうと異論があることは承知の上です)
しかし、現在では、アメリカと比べては建国からの歴史が遥かに長い各国は、自国のアイデンティティを取り戻そうとしています。
アメリカを疑い始めるフェーズに突入しているのが、歴史から見た今なのです。
まとめ
最後まで読んでくださってありがとうございます。
アメリカの帝国主義的な振る舞いは、現在は中国との対立関係にも見て取ることができます。
結局、アメリカは帝国主義を手放せなかったということです。
資本主義の世の中において、生産資源の”源泉”はやはり一次産業にあるのだなということを強く認識しました。
知的労働者がその強みを最大限に発揮できる時代になったのは疑いようのない事実ですが、それを支えるのは一次産業に携わる膨大な数の人々。
そして、その構造はこれからもしばらくの間は構築され続けるでしょう。
資本主義がもたらしたのは、既得権益との戦いです。
人の権力欲は果てしない。
そして、一度手に入れた資本を手放そうという人間はなかなかいないでしょう。
手に入れたものを手放すには、それを一度存分に味わうというフェーズが必要です。
まだ手にしていない喜びを、誰かに与えることはできません。
なんだか暗い展望が漂っていますが、そういう現実をきちんと認識して、今できることを真剣にやることが大切なのだと感じました。
歴史を学ぶことで、ほんのちょっとだけ自分の振る舞いを正すことができるように思います。
おすすめの本ですので、ぜひ手に取ってみてください。
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