どうも、よだかです。今回紹介するのは佐藤究さんの「テスカトリポカ」です。
クライムサスペンス系の長編小説で、最初から最後まで息をつかせぬ展開に夢中になって読みました。
あらすじと作品の魅力を紹介していきます。
この作品をおすすめしたい人
・クライムサスペンスが好き
・長編小説が好き
・残虐な描写が出てきても耐えられる
あらすじ
1996年。メキシコ。
麻薬カルテルに蔓延る町に暮らす17歳の少女、ルシア。
麻薬密売人を見かけたり、それに関わった人々の死が日常だった。
ある日家族を麻薬密売人に殺されことをきっかけに、日本へ渡る決意とした彼女。
全ての始まりは、彼女のその行動だった。
日本に渡って生活を始める彼女はやがて家族を作り、子供が生まれる。
子供の名前は「土方コシモ」。
親の愛を充分に受けられず育った彼。日本社会の裏側でひっそりと大きく動く臓器売買ビジネスの闇が、コシモにも迫ろうとしていた、、、。
臓器売買、麻薬密売など水面下で行われる犯罪組織の行動とそれに関わる人々の狂気と暴力を描くクライムサスペンス!
魅力①圧倒的な構成力
登場人物がどんどん切り替わりながら展開するオムニバス形式。
土方コシモが中心に据えられながら、麻薬カルテルのリーダーや臓器売買ビジネスのオーナーなどの思惑が入り乱れて、映画を見ているような気持ちになります。
それぞれのキャラクターがしっかりと作り込まれていて、彼らの行動原理が非常に強固なことも分かります。
やっていることは犯罪であることは間違いないのに、その根底に一種のプライドのようなものがあり、いつの間にか物語世界に引き込まれていきます。
自身の理念を元に犯罪を行う者。
生活のために、仕方なく組織の末端の仕事を引き受ける者。
組織の犯罪性を疑わず、自身の信念のものとに善意で行動する者。
一見複雑に絡み合う物語に見えますが、それを構成する人々の描写が丁寧でとても読みやすいです。
魅力②圧倒的な暴力性
これは、この作品の要と言っても良いでしょう。人の命がどんどん失われていきます。
これは、アステカの信仰が物語のベースになっているからです。
特に、麻薬カルテルのリーダー・バルミロの行動原理が一貫していて、敵とみなした人間に対して容赦のない制裁を加えていく様は、非常に読み応えがあります。
信仰を元に行動する人間の恐ろしさと揺るがなさに圧倒されてしまいました。
また、臓器密売に関係してくる日本人医師の行動もなかなかにドライでストイック。
他にも様々な犯罪者が出てきますが、誰もが心の底から生粋の悪人です。
まるで同情の余地がありません。
狂人たちの心の一端に触れることができます。
魅力③アステカ信仰との一体感
「テスカトリポカ」とは、アステカの神々を束ねる存在です。生贄を要求するアステカの神々の頂点に君臨する「煙を吐く鏡」。
それがテスカトリポカであるとされています。
正体が見えないからこそ、圧倒的な存在であることが作中度々出てきます。中盤まで悪の信仰の対象のように象徴のように扱われています。
しかし、物語のクライマックスで、コシモがテスカトリポカの真の姿に気づくシーンは感動的です。
このシーンがこれまで犯罪と暴力に塗れた作品世界に一筋の救いの光を差し込んでくれるのです。
物語序盤から丁寧に紡がれてきたオムニバス形式の作品が、一つの帰結を生んだ瞬間。
このシーンのために今まで全ての描写があったのだと深く実感しました。
まとめ
最後まで読んでくださってありがとうございます。
圧倒的な構成力・暴力性、アステカ信仰との一体感が見事に組み合わさった本書。
そんじょそこらのクライムサスペンスには飽きたという方にもおすすめです。
登場キャラクターのバックボーンが緻密に作り込まれているので、きっと共感できるキャラクターも見つけられるはず。
おすすめの作品ですので、是非手に取ってみてください!