始めに
「余命3000文字:著・村崎羯諦(むらさきぎゃてい)」を読了。
ライトな読み心地の短編集。
全26遍を収録。
本書の特徴を一言で言うなら、「新世代ショートショート」。
星新一が好きなので、久しぶりに短編集を読みたくなって購入。
書店でパラパラと中身を見てから、「面白いかも」と思って買ってみた。
正直、大きな驚きや感動はなかった。
私にとっては、穏やかに、淡々と向き合うタイプの本。
ノリで買った1冊だという事は否めない。
それでも購入して良かったと思う。
1時間ほどで読み終えた。
良かったと思うものもいくつかあったので紹介したい。
こういった短編集の類は、軽いノリでさくっと読めるのが良いところだ。
ブラックなユーモア・恋愛・小さな笑い・ディストピアを楽しむことができた。
こんな人にオススメ
- これから読書を習慣にしたい
- 短編集をゆる〜く楽しみたい
特に面白かった話・Best3
1位:「食べログ1.8のラーメン屋」
最も面白かった話。
ものを売るということが、価値を売るということにつながっているんだということを考えさせられた話だった。
ビジネスの本質をつくような内容で、ネタの切り口に感心させられた。
オチも秀逸で、思わず笑ってしまった。
2位:「流れ星のお仕事」
非常に興味深かった。
この話からは、娘が父を想う気持ちが強く温かく伝わってくる。
どんな仕事も尊い。
人に価値を提供するものなのだと改めて感じさせてくれる話だった。
自分の仕事も誰かの仕事も、人に価値を提供することが根底にあるのだ。
どんな仕事にもそれぞれの価値があり、尊ばれるべきものなのだということを多くの人に分かってもらいたい。
3位:「彼氏がサバ缶になった」
現代風の軽いノリでテンポよく楽しめる。
タイトルからして意味不明。
だが、それが良い。
これは、文字だからこそできる表現だなぁと感じる。
Twitterで小さくバズるという書き振りも面白い。
私自身にもこれくらいの軽いノリがあれば、人生もっと軽やかに生きることができたのだろうとなんだか羨ましくなった。
サバ缶、買ってみよう。
あなたの「小さな望み」は何?
短編集を描く作家の凄いところは、著者自身の中に本当に様々な人格があると言うことだ。
どの話もそれぞれに異なった視点から描かれているので、読者はどこかに1つ位は共感できるものを見つけることができるだろう。
様々なものの見方に触れることで、何かしらの助けになることもあるだろう。
すべての話に共通しているのは、それぞれの話が人の小さな望みを描いているということだと思った。どの登場人物もそれぞれが自分の小さな望みを叶えるために行動している。
人の望みって何なのだろうと考えさせられながら読んだ。
また、自分の望んでいることが、今はわからないのかもしれないということも感じた。
その点、それぞれの物語に出てくる彼ら彼女らは、自分の望みに非常に正直だ。
私のように考え込んでしまうタイプの人間から見ると、そういった姿はどれもとても輝いて見える。
いや、輝いて見えると言うよりも、私自身には手に入らないのかもしれないというどこか後ろ暗い気持ちにもさせられた。
だが、それと同時に人は皆違うからこそ価値があるのだということも思わせてもらうことができた。
最後に
人生を変える1冊にはならないかもしれないが、どの話も最後まで心穏やかに向き合うことができた。短編集の良いところは、次々に様々な場面をア・ラ・カルト的に楽しめるところだ。
長編小説などを読むと、まとまった時間や心の余裕が必要になる。
短編集であれば、自身のテンションに左右されることなく、どんどん読んでいくことができる。
冒頭で、ライトな読み心地と書いたが、読み手のストレスをできるだけ小さくするということも、短編小説の良い所の1つだ。
同著者の長編小説が出たら、ぜひ読んでみたい!
これから読書を習慣にしたい人や、人間らしいおかしさ・微笑ましさに触れたい人には本書をお勧めしたい。