こんにちは、よだかです。
今回紹介するのは、凪良ゆうさんの「わたしの美しい庭」です。
最近読んだ本の中では、ぶっちぎりで良かった一冊!
絵画世界のような美しさと穏やかさをたたえる作品でした。
「流浪の月」を読んだ時とはまた違う穏やかな読後感があります。
疲れた心に優しく沁みてくる本書の魅力をまとめていきます。
舞台設定とキャラクター
メインキャラクターは、百音、統理、路有の3人。
3人の住むマンションには屋上庭園があり、「御建神社(みたちじんじゃ)」と呼ばれる祠があります。
いわゆる「マイナー神社」ですが、地元の人たちの間では「悪い縁を切ってくれる」神社として名が通っています。
形代(かたしろ)に「縁を切って欲しいもの」を書いて参拝する人たちが訪れます。
仲良く暮らす3人と、御建神社に訪れる人々との関わりが描かれます。
百音(もね)
小学5年生の女の子。5歳で両親を死別してからは、統理(とうり)と一緒に暮らしている。おしゃれが好き。屋上庭園の一角に構えた「百音園」で様々な花の手入れをしている。普段は明るく聡い子だが、統理いわく「怒ると怖い」。
統理(とうり)
30代の男性。御建神社の宮司。翻訳家。マンションのオーナー。百音と一緒に暮らしている。何事にも手を抜かない性格。百音のことを心から大切に思っている。子供である百音に対しても、自分の気持ちや考えを偽らずに伝えている。
路有(ろう)
30代の男性。屋台バーのマスター。百音・統理の隣の部屋に住んでいる。統理の親友(恋人ではない)。ゲイである自分のセクシャリティを隠さずに過ごす。何者にも縛られずに生きているような雰囲気を湛えている。
この3人の関係性がとても温かくて、読んでいると心がほっこりします。
物語冒頭の場面で、3人の温かい関係性が描かれます。
朝起きるのが苦手な百音が目覚まし時計を止めて食卓に向かうと、統理と路有がいるいつもの光景。
それぞれの考えを話しながら、路有の作った朝ご飯を楽しむ3人。
それぞれが大切に思い合っていることが、この朝ごはんの場面だけで伝わってきます。
個性の異なる3人が、それぞれの在り方を尊重して絆で結ばれているのです。
お互いが程よい距離感を保っていながら、心の深い部分ではしっかりと結びついている。
年齢や性別を超えて、不思議な信頼関係で結ばれる3人の在り方は、自分もこんな関係性を作れたら幸せだなぁと思わせてくれます。
3人の関係性をモネの視点から描く話は作品全体の1割ほどですが、私はこの百音のパートが最も好きです。
隅々まで温かい日常が描かれています。
メインの話は「あの稲妻」「ロンダリング」「兄の恋人」の3遍です。
けれども、この3遍があるお陰で、萌音のパートが一層輝いて見えるのです。
それぞれの在り方
人の在り方はそれぞれにある。
誰もが頭ではわかっているはずなのに、正論としてぶつけられるとなかなか受け止められないもの。
そもそも、今の自分の在り方を大事にしているからこそ、違う価値観や考え方を”違い”と認識してしまう。
自分であることと他者を尊重することは、シンプルな様でいて奥が深いです。
「あの稲妻」「ロンダリング」「兄の恋人」では、それぞれ異なる人物が主人公です。
登場人物はそれぞれに悩みを抱えていますが、そこに向き合っていく過程がこれまた温かい。
物語開始時点で、すでに傷ついた状態からスタートしているのですが、3人ともそれをある程度自覚している点も良かったです。
そこから更に自身を深掘りして、自分自身に向き合っていく姿は、人それぞれの在り方を本当の意味で尊重するということについて考えさせてくれます。
違いを違いであると受け止めることは、ある意味で自分自身の在り方を手放してしまう様な行為でもあります。
私たちは”外の世界を眺める自分自身”がある程度固まっているからこそ、他者の在り方を知ることができます。
外の世界とのギャップに苦しんでいる時に、自分自身の在り方を手放してしまうことは怖いことなのかもしれません。
ギャップは自分が生み出しているのだと気づくと、自分の在り方を肯定できる様になります。
それぞれの在り方があって良いんだということを温かく実感させてくれるストーリーは、ちょうど良い心地よさを生み出しています。
白黒はっきりつけなくても、自分自身の心地よさというものが存在するのだということや、自分と他人は違っていて当たり前なのだということを改めて知ることができました。
それぞれの在り方を温かく受け止めるだけの度量の広さを磨いていきたくなります。
「関係性」が終わる時
3遍とも共通するテーマは「恋」。
本作で描かれる「恋」は、恋の中にいる人にとってはややビターに感じるでしょう。
けれども、本質的な部分を突いています。
「恋の閉じ方」って、とても大事です。
大事に守っていくのか、スッパリと断ち切るのか、程よい距離に置いておくのか、、、。
「過去を美しく保つ」ための大切なパーツとして、誰しも心の中に温めているものがあるはず。
自分自身の向き合うために他者がいて、自分にとっての居場所となっています。
そして、自分自身も誰かの居場所になっています。
居場所はお互いに分け合うものなのかもしれません。
そして、居場所が分け合えなくなった時が関係性を閉じる時です。
一方的に搾取したり与えたりするだけの関係性では、双方共に疲れ切ってしまいます。
しかもその渦中にある当人同士は、それすらも大切にします。
無意識に相手に依存している状態に、当人はまず気が付きません。
相手を大事に思い合うはずの気持ちが、いつの間にか行為自体が目的になってしまっている。
これは「恋」だけでなく、人間関係においてもとても大事なことです。
繋がること自体がが目的になっていないだろうか。
その行動は本心から出たものだろうか。
自分の気持ちに素直に生きるのは難しいですし、一生懸命に生きていれば尚更自分の気持ちは見えにくくなっていくでしょう。
経験を通してしか知り得ないことがたくさんあります。
物語の登場人物たちは、そういったことと時間をかけて緩やかに、けれども力強く向き合っていくのです。
断ち切りたいもの
「事実は存在しない。解釈があるだけ」というニーチェの言葉が出てくるのですが、この場面は特に心に響きました。
自分自身が断ち切りたいものは何か?
続けてきた習慣、妙なこだわり、成長に歯止めをかけているもの、ついついしてしまいがちな判断。
手放したら楽になるものがたくさんあるように感じます。
本当は手放したいのだけれど、それを手放すと自分が自分でなくなってしまうかのような恐れを感じるのかもしれません。
特に、それが人との関係性の中で磨かれてきたものだとしたら尚更です。
近くにあるものほど、全体像が見えにくくなります。
「断ち切る」というのは「一度距離をとって、全体像を見る作業」であるとも言えます。
現在の視点とは違う視点で物事を眺めてみることで、新しい解釈が生まれてくるものです。
本書の登場人物たちも、それぞれの経験を通して、新しい視点を獲得していく様が見事に描かれていると感じました。
百音・統理・路有の3人が、ちょうど良い距離感で、読者の心に新しい視点を届けてくれます!
まとめ
最後まで読んでくださってありがとうございます。
あたたかさと優しさのこもった素敵な作品でした。
人との人との関わりの在り方を丁寧に見つめ直したくなる1冊!
おすすめの本ですので、ぜひ手に取ってみてください。